“疑惑の判定”回避のサムライブルー。「科学の力」はすごい!
以前、本サイトの記事の中でFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会で使用される12個の専用カメラやAI(人工知能)について伝えたが(いつか副審はAIが担う? W杯カタール大会は人工知能がオフサイド判定を参照)、まさか日本の試合でその効果を実感することになるとは思わなかった。
ご存知のとおり、日本がスペインを撃破したグループEの最終戦。あの逆転弾だ。
田中碧のゴールをアシストした三笘薫の折り返したボールが、ゴールラインを割ったのかどうか。確かに目視では分からなかった。副審は当然、旗を挙げない。
今大会、専用カメラを設置した主な理由は、ルールが複雑化しているオフサイドトラップを正確に判定するためだ。でも、オフサイド以外でもその効果を発揮した。
ABEMAの試合中継でゴール裏でピッチリポートしていた槙野智章は、「ラインは割っていない! おれの目の前だったぞ!!」と叫んだ。
しかし、そのあとに流された横からのスローモーション映像では割っているようにも見える。解説の本田圭佑は「これ、出てるかもしれへん…」と残念そうにつぶやいた。私も本田に同じく、「出てるかも」と思った。
数分間のVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)確認ののち、最終的な主審のジェスチャーは「ゴール」を示した。
日本がスペインに逆転勝利し、なんとグループEを首位で通過。スペインは2位通過となった。初戦で日本に敗れた優勝候補のドイツは、最終戦でコスタリカに勝利したものの、予選で姿を消した。(初戦ってホント重要だよね…)
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ドイツ国内では、日本―スペイン戦の逆転ゴールに納得がいかない様子。『ビルド』紙は、1966年のW杯イングランド大会の決勝で西ドイツ代表に起きた同様の事態を引き合いに出し、「またしても“疑惑の判定”があり、ドイツは敗退してしまった」と嘆いた。
しかしその後、スタジアムの専用カメラが写したと思われる、三笘の頭上から撮影した写真がネット上で出回った。上から見ると確かにほんのわずかだけボールがラインにかかっているように見える。(「サッカー 1.88m」で検索するとたくさん出てくるので探してみて!)
ラインにかかったその幅、なんと1.88mmだという!
FIFAはツイッターで「ボールがアウトオブプレーになったかどうかはVARでチェックされた。ビデオマッチオフィシャルがゴールラインカメラの映像を使いチェックしたところ、他のカメラでは誤解を招く画像を提供するかもしれないが、入手可能な証拠ではボール全体がプレーから外れていたわけではない」と見解を示した。
1.88mmを見逃さなかった「科学の力」。すごい!
そう思ったと同時に、ふと2002年W杯日韓大会のある試合を思い出した。
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2002年W杯日韓大会の準々決勝。スペイン―韓国戦。この試合もまた、ゴールラインを割ったかどうかの判定で物議をかもした。思い起こせば、この試合もスペインだったのか…。
試合は延長戦を終えてもスコアレスドロー。PK戦を韓国が制し、アジア史上初のベスト4入りをはたした。しかし、それ以上に話題となったのは試合中にスペインが2度もゴールネットを揺らすも、疑惑の判定でゴールを取り消されたことだ。
そのうちの一つ、延長前半2分のシーン。右サイドのゴールライン際からホアキン・サンチェスがクロスを上げ、フェルナンド・モリエンテスがヘディングでゴールに叩き込んだが、副審がラインを割ったと判定。ノーゴールとなった。(いまの若い世代は知らないと思う。ぜひYouTubeで探してみて!)
当時はVARなど無い。スロー映像を見てわれわれは誤審を確信したのだが、主審が一度下した判定は覆らない時代だった。
実際の映像を見ると、際どいどころかまったくのインプレー。“歴史的誤審”となり、スペイン国内では「審判の買収」を疑う声も出た。20年が経ったいまもなお遺恨は残る。悲劇を忘れないようにと試合が行われた6月22日が訪れると、当時の騒動を蒸し返す記事を報じるメディアもあるほどだ。
そう考えると、もしも今回の大会で高性能カメラやAIが無く、頭上からのあの写真が撮れなかったとしたら、田中碧の逆転ゴールに対するスペイン人の怒りはおさまらなかっただろう。韓国同様に、日本への恨みは何十年続くことになったかもしれない。(まあ、スペインは2位で予選を通過できたのでなんとかおさまったかもしれないが…)
とにかく、「1.88mm」というミクロの世界を確認できるようになった世界のサッカー。すごい時代になったもんだと、つくづく感じた。