ジーコ70歳。あのときドイツで一緒に写真を撮りたかった…

 あのジーコが今年の3月3日で70歳になったという。ニュースで知った。

 鹿島アントラーズのレジェンドで、日本代表監督としてワールドカップ(W杯)を率いたあのジーコだ。世界的に見れば、元ブラジル代表の英雄。昨年末に亡くなったサッカーの神様ペレにちなんで「白いペレ」とも呼ばれた。

 ジーコのことを初めて知ったのは、Jリーグ加盟を視野に入れた住友金属工業蹴球部に電撃入団した1991年。世代が違うので、全盛期のジーコの活躍などはまったく知らなかった。1981年にトヨタカップ出場のために来日したときは幼すぎたし。

 Jリーグ開幕戦のハットトリックなど、その華麗なプレーに魅了され大好きになった人は数しれないわけで、私もその一人だ。ジーコが大大大大大好きである!

 「ド忘れ」がいちじるしいオッサンになったいまでも、本名の「アルトゥール・アントゥネス・コインブラ」はいつでもパッと言える!(これがパッと出ない人はジーコ好きとは言えないですよねー)

 心残りなのはジーコのプレーをこの目で見られなかったことだ。Jリーグ開幕時やジーコが引退する1994年は北海道に住んでいたので、試合を観戦するのが難しかった。

 私がよりジーコのプレーに魅了されたのは、ジーコが現役を引退したあとかもしれない。大学生になってから若いころのジーコのプレーをたくさん見たからだ。

 当時、3つ年上の姉のボーイフレンドもサッカーバカで、「もう見ないから、あげるよ」とサッカーの番組や試合を録画した大量のビデオテープをもらった。テープの中にはW杯の試合もたくさんあり、1982年のスペイン大会や86年メキシコ大会、90年イタリア大会などの名勝負を見ることができた。

 スペイン大会で「黄金のカルテット」と称されたジーコを中心としたブラジル代表の中盤にはとにかく興奮した。メキシコ大会でのプラティニ率いるフランス戦では、ジーコは怪我のため後半途中からの出場だったのだけど、そのファーストタッチが絶妙なキラーパスでうなった。

 また、私が在学していた大学の図書館に、なぜか1981年第2回トヨタカップ決勝(フラメンゴ対リバプール)の市販のビデオテープが閲覧用としてあり、フラメンゴ時代のプレーも見ることができた。

 正確無比なプレー。独特の間。メッセージのこもったスルーパス。こうして私は、ジーコのすごさを再認識するとともに「40歳でもJリーグで活躍できたわけだ」と納得した。

 あと、いつだったか覚えてないのだけど、都内にあった「エスパッソ・ジーコ」というカフェに一人で行ったなあ(たしかジーコが経営)。ジーコが好んで飲むというガラナを注文し(1杯数百円した)、ジーコのサインをモチーフにしたロゴ入りのTシャツも買った(2500円ぐらいしたと思う)。

 貧乏学生には大きすぎる出費だったが、いま思えばとにかくジーコが好きすぎて、近づきたかったんだと思う。

 そんな大好きなジーコだが、実は一度だけ会ったことがある。見たのではない。会ったのだ。

 それはジーコが日本代表監督だった2005年6月。ドイツでのことだ。

 2006年のW杯ドイツ大会を翌年に控え、プレ大会「コンフェデレーションズカップ」がドイツで開催された。私は、当時現地に留学していた弟を頼ってドイツに渡り、3試合を観戦した。

 観戦したのはドイツ対チュニジア戦、日本対ギリシア戦、日本対ブラジル戦。そのブラジル戦の開催地がケルンで、私たちが宿泊したユース・ホステルの真向かいに日本代表が拠点とした「ヒルトン・ケルン(Hilton Cologne)」があった。

 たしかブラジル戦があった日の夜だったと思う。夕食を終え、「どっかに飲みに行こう!」と弟と一緒にホテルを出た。すると、ヒルトン・ケルンの入り口付近に人だかりができているのが見えて、騒がしかった。

 

「あれ、なんか人が集まってるぞ!?」

 

 弟と一緒に少し近づくと、すぐにその理由がわかった。人だかりの中心にいたのはジーコだった!!

 

「ジーコだ! ジーコがいる!!」。ダッシュしてさらに近づく。

 

 ジーコは、取り囲む人の握手の要求に、快く、そして笑顔で応じていた。弟と私もその人だかりに加わり、握手の順番を待った。ジーコは外出のためホテルを出たところだった。そしてこのとき、日本代表がヒルトン・ケルンに宿泊していることを初めて知った。

 あこがれのジーコが目の前にいる!!!!!

 順番がきて、握手をするとき、私は何か一言話しかけたくなった。そして、「オブリガード(ありがとう)、ジーコ!」と声をかけた。ジーコは優しい笑顔で、「アリガートー!」と日本語で返してくれた。こんなラッキーなことが起こるなんて…。もう感無量だった(涙)。

 しかし、このとき私は大失敗をおかした。デジタルカメラを持たずに外出してしまったのだ。携帯電話(ガラケー)はドイツではつながらないため部屋に置いたまま。ジーコと写真を撮るすべがなかった…。サッカーバカにとっては痛恨。深い後悔がいまも残る。

 それでも、他人に証明はできないけれども(弟という証人はいます!)、「おれはジーコに会ったことがあるぜ!」という自慢の気持ちがサッカーバカの心をいまも満たしてくれている。

 ありがとう、ジーコ!(でもやっぱり、ツーショット撮りたかった…)

 そんなジーコも、もう70歳なのか。感慨深く思った。そしてなんだか、久しぶりに大好きなジーコのプレーがまた見たくなった。

by 北 コウタ
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