女子W杯2011の優勝メンバーが「元気すぎる」という話

 ちょと前に「すげぇなあ~」と思った話。

 それは、なでしこジャパンが初の世界王者となった2011年のFIFA女子ワールドカップ(W杯)ドイツ大会のメンバーが、いまも「元気すぎる!」と感じたことだ。

 女子W杯2011は、東日本大震災後まもない6月下旬に開幕した。メンバーたちは内に秘めた大きなものを背負ってドイツに渡り、大会に臨んだ。

 ベスト8で優勝候補の開催国ドイツを延長戦の末に撃破。波に乗った。決勝では強国アメリカに臆することなく挑み、延長・PK戦の激闘を制して初の世界一の座を勝ち取った。主将の澤穂希が得点王と大会最優秀選手を受賞。「なでしこ」のパスサッカーを世界に知らしめただけでなく、震災の悲しみにくれる日本の人々に勇気と希望を与えたのだ。

 私が調べた限り、当時の大会登録メンバー21人のうち、いまも現役でプレーするのは13人。中には熊谷紗希や永里優季、岩渕真奈ら海外でプレーする選手もいる。2011年当時にメンバー最年少だった岩渕も、今年3月に30歳を迎える。現役でプレーする13人全員が、現在所属クラブでベテランとして活躍する。

 で、「元気だなぁ」と強く感じたのは、1月28日に決勝戦を終えた「皇后杯」(JFA第44回全日本女子サッカー選手権大会)のベスト8の4試合を見たからだ。テレビ放送されていた。

 ベスト8に残ったのは、日テレ・東京ヴェルディベレーザ、サンフレッチェ広島レジーナ、アルビレックス新潟レディース、大宮アルディージャVENTUS、三菱重工浦和レッズレディース、INAC神戸レオネッサ、ノジマステラ神奈川相模原の8チーム。

 そのベンチ入りのメンバーを見ると、2011年W杯優勝メンバーの名前がチラホラ見られた。岩清水梓、宇津木瑠美、近賀ゆかり、福元美穂、上尾野辺めぐみ、鮫島彩、安藤梢、髙瀬愛実の8人だ(順不同)。

 このうち、岩清水、宇津木、近賀、上尾野辺、安藤、高瀬の6人はスタメンをはる主力の位置づけ(高瀬は準々決勝は温存のベンチ要員だったが、準決勝はスタメンで先制ゴールを決めた!)。驚くべきは、岩清水、近賀、上尾野辺、安藤の4人にいたってはオーバー35だということだ…。

 特筆すべきは安藤梢。少しだけ詳しく伝えたい。

 現在40歳で、もう「キングカズ」の領域。それで試合を見ると、なんとセンターバックをやっていた!(マジで!?ってもう声が出た…)

 本来はFWや攻撃的MFが本職の安藤だが、昨季は試合の終盤でボランチにポジションを変え、試合を締めるクローザー的な役割も担った。そつなくこなす彼女のプレーを見て、「うまいなぁ~」って感嘆していたのだが、まさか今季はセンターバックをやるとは…。

 なんでも、怪我人などのクラブ事情により任されたという。監督から全幅の信頼を寄せられ、チームのためならどこでも献身的にプレーするという存在感はまさに女性版の「長谷部誠」といったところだろう。別の視点で見れば「澤を超えている」と思った。

 この世代、世界一を獲っただけあって、他の若い世代にはない気概が感じられる。諦めない気持ち、勝者のメンタリティなど世界の頂点に立ったからこそ得られた経験値だろう。大ベテランなっても色褪せず、精度の高いプレーを見せ続けられる大きな要因だと、強く感じるなあー。

 そしてもう一つ、忘れてはならないことがある。この13人は、なでしこ史上最高のプレーヤー澤穂希の背中を見て学び、成長してきた世代だということ。

 「苦しいときは、私の背中を見て!」と後輩に言い放った澤の名言は有名だが、苦しいときこそ「強い気持ち」を持つことの大切さを身をもって知る世代だ。この経験もかなり大きい。

 「Z世代」と言われる最近の若い世代から見て、ベテラン世代の持つ精神論的な気概はときに時代錯誤に映るかもしれない。しかし、歳を重ねてもブレない精神力や情熱が、サッカーを続ける原動力を生み出していることは間違いない。結果的にこれだけ長く主力として活躍している事実を考えると、その姿勢は学ぶに値するだろう。

 ということで、女子サッカーの選手寿命も長くなったなあと感じつつ、「W杯優勝メンバー、すげぇなあー」とつくづく思ったという話。

〈敬称略〉


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by 北 コウタ
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