学園長になった「岡ちゃん」の魅力とワクワク感

 「岡ちゃん」こと、サッカー元日本代表監督の岡田武史氏が、来年春に開校する高校の学園長に就任したという。

 岡ちゃんといえば、これまでも型破りな挑戦でたびたび世間やサッカーファンを驚かせてきた。Jクラブの複数オファーを蹴って中国のサッカークラブの監督になったり、愛媛県にある町クラブ(現在のJ3・FC今治)のオーナーになって経営に乗り出したり。

 なので「今度は学園長かよ~!」ってみんな思ったわけだが、岡ちゃんが学校トップになると聞いて、ワクワクがとまらないのは私だけだろうか。

 奥寺康彦氏や木村和司氏など独特な個性を持つ日本サッカー界のレジェンドたちはたくさんいる。でも、岡ちゃんほど魅力的な人はいない。大ファンなのだ。

 私にとってはサッカー人であり、知識人の位置づけでもある。

 皆さんの岡ちゃんのイメージってどんな感じですか?

 ストイックで思慮深く、不言実行。決断したら、ブレずに、実直に、地道に取り組む。不安や孤独、プレッシャーを感じたとしても、やっぱりブレず、覚悟をもって前へ進む。

 カッコよく言いすぎ?? だとしても、私の場合はこんな感じ。あこがれるし、自分もそうありたいと思う。大リスペクトな存在だ! 上記は代表監督時代の印象が強いかもしれない。

 例えば、コーチから監督に電撃就任し、予選突破が絶望の状況の中、日本代表を奇跡のW杯初出場へ導いた1998年W杯フランス大会の最終予選。または、本大会直前に大不振のチームを“大英断”の路線変更で復調させ、16強に進出した2010年のW杯南アフリカ大会。

 いずれもブレない信念と決断力で困難な状況を打開。岡ちゃんはリーダーのあるべき姿を示した。

 でも、監督業をやめてからの岡ちゃんのほうが魅力度が増したように私は感じる。

 メディアでの対談やサッカー以外の他分野での活動などを通じて、素顔を垣間見る機会が増えたからだろう。監督時代のようなピリピリ感もないし。笑顔もよく見る。

 私はとりわけ、岡ちゃんのトークを聞くのが好きだ。

 発する言葉に“教養”が感じられ、説得力がある。経験がにじみ出ているというか、とにかく引き込まれしまうのだ。もっと話が聞きたいという思いにかられる。

 周りの目を気にせずに「自分はこうだ」とズバッと言える強さもカッコいい。だから歯に衣着せぬ発言も少なくない。トークの展開の中で違うと思うことがあれば「そういうことではなくて」ときっぱり言う。日本サッカー協会の方針に意見することだってある。

 人望が厚く、周りに人が集まってくるのも岡ちゃんならではの魅力だろう。

 3月に放送されたサッカー番組「FOOT×BRAIN」にゲスト出演した際、自身の行動パターンについてこんなふうに話していた。

 単純にフットワークが軽く、いろんなことに興味がある。面白ろそうだと思ったら、話を聞いて、やってみる。ジーッと考えてからではなく、まずは動くタイプだと。

 ただ、やってみて、「これは大変だ。やめようかな」と思うことも。でも、そのときに後ろを振り返ると、すでに人がついてきている。だから、「もう前に行くしかない」となる。「おれは、だいたいこのパターンなんだよ」と話した。

 現在会長として運営するFC今治はこのほど新スタジアムを完成させた。岡ちゃんによると、この建設プロジェクトもまた、同じパターンだったという。“40億円”の資金調達が必要となり、一度は尻込みしたが、後ろを見るとすでにたくさんの人がついてきている。「もう前に行くしかないなー」という状況だったと、笑いながら振り返った。

 新しいことを始めるには、最初の一歩を踏み出すには、勇気がいる。誰かのその一歩を待ち、ついていく人もいる。そう考えると、やっぱり岡ちゃんってリーダーなんだなあと思った。

 そんな岡ちゃんが学園長に就任したのは、既存の私立高校を再編する「FC今治高校」。インパクトを狙った名称なだけで、サッカー専門学校ではない!

 で、育てたい人材は「ヒストリック・キャプテン(歴史を動かすリーダー)」だという。

 岡ちゃんによると、ここで言う「歴史を動かす人」とは、大谷翔平のようなヒーローではなく、地道に小さなコミュニティーからつくり、人を巻き込んでいける人。これからは、一人ひとりの「知」をまとめて「集合知」としてコントロールできるリーダーが必要であり、そのためにも、コミュニケーション能力や、時代の変化や想定外の事態に適応できるタフさを持った人材の育成を目指すという。

 むむ! それって岡ちゃんの分身のような人材ではないか!!って思ったが。

 「新しいチャレンジをする教育をやりたい」というのが、今回、岡ちゃんが学園長を引き受けた理由だが(決断まで2年間熟考したという)、その根底にあるのは「主体性のある人材」「自ら考えられる人材」を育てたいという強い思いだ。

 いまやスマホがあれば何でも調べられ、チャットGPTが何でも答えてくれる時代だ。そこには自ら考えて行動しなくなっている時代に対する危機感もあるかもしれない。

 そもそも、岡ちゃんが町クラブのオーナーになってFC今治を立ち上げたのも、「主体的にプレーできる選手」「自立した選手」を育て、その「個」をまとめたチームづくりがしたい。それこそがいまの日本サッカーの底上げに必要であり、強化の方向性を変える時期に来ている、と考えたからだ。

 だからスポーツにしろ、芸術にしろ、ビジネスにしろ、あらゆる分野において「主体性」「自律性」を培うための教育は重要だと考え、岡ちゃんは高校教育への挑戦を決断したのだと思う!

 ということで、私が岡ちゃんの学園長就任にワクワク感がとまらない理由。少しはわかってもらえました?


関連記事:
岡田武史元監督と闘莉王氏が日本サッカーに提言。「多様性が必要。強化の方向性、変える時期」

by 北 コウタ
LINEで送る
Pocket