慶応高校の甲子園優勝と高校サッカー「丸刈り」の思い出

 2021年に書いた記事のアクセス数が最近やたらと上がっていた。高校サッカーのかつての強豪、国見高校(長崎県)が伝統の「丸刈り」を廃止した記事である。

 「なんでいまさら?」と思うわけだが、こういうことがたまにある。その内容が、世間一般でリアルタイムに話題になっている出来事に関連する場合に起こるのだ。

 ニュースを見ていて、ようやくわかった。夏の甲子園で優勝した慶応高校(神奈川県)の盛り上がりに関係していると。

 107年ぶりの優勝とか、応援がすごかったとか、いろいろ話題はあったようだが、生徒の「頭髪」も注目されていた。

 野球帽を取った彼らはサラサラヘアー。サイドを刈り上げたツーブロックも見られ、高校球児の代名詞でもある「丸刈り」ではなかった。

 華やかなプロ野球とは対照的に、高校野球は日焼けした丸刈りの球児という画的に地味な印象。それが何十年と変わらない。だから長髪の球児を見た新鮮感はハンパなく、「いいねー」と思った。

 「野球部は丸刈り」というルールを廃止する高校が近年増えているという。正確には「髪型は生徒の自主性に任せる」ということで、坊主にしたい生徒はしてもいい。

 今夏の甲子園に出場した49校中、“丸刈りじゃない高校”は7校(全体の約14%)で、そのうち3校がベスト8に進んだ。優勝した慶応高校は高校野球の強い弱いが「丸刈り」とは関係ないことを証明したのだから、歴史を変える強いインパクトがあったわけだ。

 長髪は「高校球児らしくない」とか「チャラチャラしてる」などと言う人がいるようだが、「高校生らしさ」とは何なのか。とらえ方は時代や世代によってまったく違う。ジェンダー平等が広く叫ばれる昨今では、「~らしさ」という表現方法すら疑問視する人も少なくない。

 そういえば、今年6月の西武ホールディングスの株主総会で、経営するプロ野球・埼玉西武ライオンズのエース投手2人の長髪(ロン毛レベル)に対し苦言を呈した株主がいて話題になった。

 その株主は「見苦しい」「食事がまずくなる」とまで言ったようだが、野球にクリーンなイメージを持つ人はわりと多いのだろうか。であれば、そういう日本の野球観も高校野球の「丸刈り論争」に関係してそうだ。

 個人的には「大衆スポーツといえば野球」だった昭和の時代を長く生きた人が、わりと古い“高校野球観”にとらわれているように感じる。

 冒頭で伝えた国見高校の場合、かつて一時代を築いた名将監督の小嶺忠敏氏が、生徒に実直さを求める教育の一環として「サッカー部は丸刈り」というルールをつくった。

 高校生といえば、男子も女子もおしゃれに目覚める年ごろだ。男子なら女子の視線が気になるし、カッコつけたくもなる。小嶺氏はそういう浮ついた気持ちを含め、“煩悩”みたいなものを抱かないよう、サッカーに集中できるよう、規律をつくったのだろう。

 かつては国見高校以外にも丸刈りの強豪校はあったが、いまではほとんど見られなくなった。“象徴”だった国見がやめたことで、いまや高校サッカー界の丸刈りは「時代錯誤」的な印象がいっそう強くなったと感じる。

 そもそも、こうした“丸刈り論争”は日本特有だと思う。歴史を見れば、明治維新以降の軍人が一般的に丸刈り頭で、その後「気合を入れる」などの精神論的な意味合いをもつようになったという。

 また「丸刈り=反省」みたいな懲罰的な思想も日本にはあるが、私の場合、とにかくその印象が強い。というのも、丸刈りにまつわるエピソードが高校サッカー時代にあるからだ。

 私が通った高校のサッカー部は当時、N先生という万年“坊主頭”の人が監督だった。

 部員の髪型は自由だが、このN先生は部員が何か過ちを犯すと、ことあるごとに「坊主だ!」と言う人だったのである。

 高2の冬休み。練習に遅刻する部員が増えだした。するとN先生は、「明日から遅刻したやつは坊主だ!」と言い放った。その後、数カ月の間に部員5、6人が丸刈りになった…。他の部活の生徒からは「サッカー部がどんどん野球部化してるよ~」と冷やかされる始末。

 坊主は絶対に嫌だった私はなんとか回避したが、高3の引退間近に最大の危機が訪れた。

 高3の春すぎのことだ。

 インターハイの札幌地区予選が始まり、2回戦を2日後に控えた日だった。

 体育館の更衣室で着替え、練習までの少しの時間を使って友だちと4人で“サッカーバレー”を楽しんだ。バレーボール部が練習のためにネットを設置していたので、ボールと一緒に拝借したのである。

 数分後、N先生の怒号が体育館中に響いた。「なーにやってんだー!!」。そして、必殺の一言が飛び出した。「おまえらー! 坊主だ!!」

 高校時代って、何で怒られたのかよくわからないこと多々ありませんでしたか?

 このときは、手で扱うべきバレーボールを蹴ったという行為がN先生の逆鱗に触れたよう。例の「ビッグモーター保険金不正請求事件」会見時の前社長による「ゴルフ愛好者を冒涜している!」発言と同じような怒りだったのだろう…。

 体育教員室であらためて説教をくらった私ら4人だったが、突然の「坊主命令」に納得できなかった。反骨心の強いS君は「なんで坊主にしなきゃいけないんですか!」と反論したほどだ。

 で、結局どうなったかというと、4人は坊主にしていない。というのは、2日後のインターハイ予選で負けてしまい、そのまま部活引退になったからだ。

 あのとき2回戦を勝ち上がっていたら、坊主になってたかもなあ。そして、卒業アルバムの個人写真はクリクリ頭で写ってたなあ…。

 高校時代は、雨が降ったり汗をかいたりするとクルっとうねる「くせ毛」が嫌でしかたなかったが、坊主はもっと嫌だった。(小学3年まではずっと坊主だったが)

 そんなくせ毛の私だが、高3の卒業間際は当時イタリア・セリエAに移籍中の三浦知良(カズ)の髪型にあこがれ、真似て、若干長めの頭髪をキープしていた。

 周りから見ればただのボサボサで伸びっぱなしのくせ毛だったに違いないが、当の本人はカズになりきっていたのである。(写真が残っているが酷い…)

 でも、そういうアホみたいな衝動的な行動だったり、発想だったり、変身願望もまた「高校生らしさ」ではないか。抑えつけず、解放してあげるべき。「丸刈りルール」があったら、カズになりきれないわけで。

 ということで、奇抜すぎる髪色や髪型は別にして、高校生の頭髪ぐらい自主性に任せましょーよと、私も思う。

 

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by 北 コウタ
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