うまくなるためにやったこと ― 左手で食べる

 DAZN配信「やべっちスタジアム」の恒例キャンプレポート「デジっちが行く!」が好きだ。

 J1クラブのキャンプ中の裏側を選手が撮影する企画。その中で、アルビレックス新潟の小見洋太選手(20歳)が、利き手ではない左手で食事をしているところをイジられていた。

 そのやり取りはこんな感じ。

 

 撮影する選手「何で左手で食べてるの?」

 小見選手 (頭を指差しながら)「脳の活性化~」

 撮影する選手「右脳の活性化?」

 小見選手 (もぐもぐしながら、うなずく)

 撮影する選手「プレーに影響してる?」

 小見選手「大学生を相手に3点取れた」

 撮影する選手「アハハハハハーーー」(爆笑)

 

 右脳の活性化のために左手でメシを食う。さすがJリーガー! 安定のサッカーバカである!!

 そう思ってニヤけてしまったのは、実は私も左手で食べているから。投げる、蹴る、ペンを持つ。いずれも右利きのくせに。

 私の「左手で食べる」歴は10数年。小見選手よりずっと先輩だ。ただ、目的はまったく同じで右脳の活性化! サッカーバカって、やっぱり考えることが似ているのかなあ。

 本だったか、ネットだったか。昔どこかで読んだことがあった。右脳を活性化させると、表現力が豊かになる、クリエイティブな発想が湧きやすくなる、みたいな内容だ。芸術家は左利きが多い、なんてことも書いてあったような。

 前置きが長くなったが、サッカーがうまくなるために「左手で食べる」ことを始めた話をしたい。

 最初に挑戦したのは中学2年のころ。

 当時、クラスメイトにM君という親友がいた。小学4年時に一緒にサッカーを始め、中学でも同じサッカー部。典型的なスポーツ万能男子で、色白のイケメン。それでいてひけらかすタイプではなく、不言実行の努力家。モテた。サッカーも抜群にうまく、チームのキャプテンだった。

 そのM君がある日突然、給食を左手で食べ始めた。

 私は、小見選手のシーンのように、「何で左手で食べてるの?」と聞いた。するとM君は、「左利きの感覚に慣れれば、左足でも違和感なく蹴れるようになるかなあと思って」と答えた。

 なるほど、たしかにそうかも―。そんなこと、考えたことがなかった。

 私もすぐにM君の真似をして左手で食べることを始めた。でもこれがまたシンドイのなんのって…。つかめない、すくえない。とにかくもどかしい。あと、左手の変なところに力が入ってしまい、かなり疲れる。そんなにゆっくり食べている時間もないし。

 数週間は頑張ったが、結局続かなかった。

 それでも、M君はもくもくと「左手で食べる」を続けた。やめなかった。いま振り返ると、M君のサッカーバカさは中2にしてすでに成熟していたなあと思う。

 2度目の挑戦は転職活動中の30歳のとき。

 30歳になり新しい環境と挑戦を求め、仕事を辞めた。そんなときだったからだろうか。もう一度「左手で食べる」に挑戦しようって、ふと思いついた。ただ、このときの目的は、サッカー向上よりも右脳の活性化のほうが大きかったかな。

 あれから、いまに至り続いているわけだが、ポイントは転職活動中に始めたこと。要は、時間の余裕だ。ぎこちなくても、焼き魚の小骨を取るのに苦戦しても、疲れても。長引く食事の時間を一切気にする必要はない。30分でも、1時間かかっても。

 こうした環境がないとなかなか続けられないと思う。だって仕事を始めると昼食休憩はだいたい60分だし、ちんたら食ってられないわけで。私の場合、再就職まで5か月半ほどの時間があったので、そのあいだ「左手で食べる」ことにそれなりに慣れることができた。

 で、結果的にサッカーのプレーに影響してんの?って話。

 う~ん、目に見える変化はなんとも分からない…。でも、効果は出ていると確信している。というのは、左利きの感覚が養われている実感が確実にあるからだ!

 2度目の挑戦から2年間ぐらいは、何の変化も感じなかった。それが3年目ぐらいから、目に見える感覚の変化が出てきた。

 ある日のこと、持っていた書類をふと落としてしまったとき、それを拾おうととっさに出たのが左手で驚いた。またある日は、ドアを開けようと無意識にドアノブにかけたのが左手だった。

 こういう体験がちょこちょこ出るように。とにかくうれしかったし、続けてよかったなって思った。

 きっと目には見えない影響が、体の中で、脳の中で、起きているはず。発想だったり、表現力だったり。そしてサッカーのプレーにも。

 でも、10数年が経つが、まったくの違和感なく左手で食べられるレベルではまだないと感じる。

 1日のうちの食事の時間なんてほんの数10分間だし、ペンなどの動作はすべて右手だし。なんせ、子どものころから右手で食べてきた時間と年数をまだ超えられていないわけで。継続するしかない。

 最後に、左利きの感覚がどうのこうのというのは置いておいて、「左手で食べる」ようになって、めっちゃ便利!と声を大にして言いたいどうでもいいことを2つ。

 右手でマウスを握ってネットサーフィンしながら食事できます! これ便利じゃね!?
 
 あと、焼肉に行ったとき、右手でトングを握りみんなに肉を焼いてあげながら、左手で自分も食べられます! すごくね!?

 って、これまで数人に自慢げに話したことがある。みんな苦笑してたが…。

by 北 コウタ
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