どなたか、私に「帽子」を贈ってください!

 「ハットトリック」の語源は何か。

 イギリスの伝統スポーツで国技の「クリケット」に由来するという。クリケットは野球の原型と言われるスポーツだ。そう聞いたことがあった。そんなところから? 意外である。
 
 詳しいルールは割愛するが、クリケットも野球と同じく2チームが攻守に分かれて戦う。

 ボーラー(投手)とバッツマン(打者)が存在。投手はウィケットと呼ばれる「柱と横木」を倒すためにボールを投げる。相手のバッツマン(打者)はそれを打ち返し、阻止する。攻守交代を繰り返し、試合は進む。

 投手がウィケットを倒せば得点が入り、打者はアウトになる。だが、投手が打者を打ち取ることは、野球以上に難易度が高いのだという。

 その難易度の高いプレーを3投連続で成功させた投手が現れた。

 19世紀半ば、イギリスでのことだ。

 偉業を称え、ファンは募金を行った。集めたお金で「帽子」を買い、名誉の証として選手へ贈った。これがハットトリックの始まりだという。(諸説あるというが)

 英語で書くと「hat-trick」。ハット(hat)は「帽子」で、トリック(trick)は「妙技、奇術」を意味する。なるほど、そういうことね。

 ただ、驚いたのはサッカー以外のスポーツでも使われるということ。

 野球、ラグビー、ホッケーなど。なんとモータースポーツでも使うらしい。(1つのレースでポールポジション、ファーステストラップ、優勝をすることをハットトリックと呼ぶようだ)

 ちなみに、サッカーの国際試合におけるハットトリックの世界最短記録は、われらが「ゴン中山隊長」(中山雅史氏)が2000年の日本対ブルネイ戦で打ち立てた「3分15秒」だ(ギネス認定)。さすがゴン隊長。誇らしいぜー。

 とにかく、ハットトリックは「名誉」の証なんです!

 長い前置きを書いたが、本題はここから。

 小学校4年時にサッカーを始め、40年近く。ついに先日、人生初の「ハットトリック」を達成した!

 ここまで長かった。でも、一度でいいからやってみたかった。だから、猛烈にうれしかった。感無量。涙。花火ドーン。くす玉パカー。神様、ご褒美ありがとうー。

 

 とはいうものの、実際には、とある“シニアサッカー”の試合でのことだが。

 

 おなかの出ている、白髪多めのおっさんたちが、少年のように目を輝かせ、ボールを追いかけ、ときによろけて転ぶ。そんなレベルのサッカーである…。

 それでも、私なりに一応ルールがあった。

 練習試合とかではなく、地域のサッカー協会(頂点に君臨するのは日本サッカー協会)が主催するリーグ戦、つまり「公式戦」でのハットトリックが条件だ。

 だから、レベルこそ高くはないが、一応「公式戦で達成」。という、自分を納得させる結果を残せたのである。

 サッカー人なら「誰もがハットトリックを夢見るのか」といえば、きっとそうではない。ポジションにより実現性が違うからだ。

 FW経験者なら「経験がある」という人がいるかもしれない。逆に、DFやGK経験者なら考えたことがない人もいるだろう。

 私の場合、小中時代はMFで始まり、途中でDFになった。高校から再びMFに戻り、いまに至る。小中高は公式戦の得点がゼロ(高校は出場すらない)。ハットトリックを意識したことはなかった。

 初めて意識したのは大学時代。

 サッカー同好会(サークル活動)でプレーした。2年時、チームが所属する埼玉県の社会人リーグで初めて1試合に2点取った。あのとき初めて、「あと1点でハットトリックじゃね!?」と意識したことを思い出す。

 つまり、2得点すればハットトリックは必ず頭をよぎる。

 若いころ、1試合で2得点したのは大学2年時のあのときだけ。30代の社会人リーグ時代を含めて、それ以外は1得点がたまにあったぐらい。

 ところが、30代後半でシニアサッカーを始めてからは、実は2得点がこれまで3度ほどあった。

 理由はシニアサッカーにある。

 チームによってレベルの差がけっこうあるからだ。例えば、世代交代が遅れがちなチームは平均年齢が高く、毎年リーグ下位にいる。そういうチームは大量失点しがちだ。対戦相手にとっては得点機会が多い。

 なので、おっさんになってからの方がハットトリックを意識していたわけである。

 

 でも、いつも2点止まり。3点目って、ホントなかなか取れない!

 

 試合終盤、老体にムチを打ってゴール前まで何度も駆け上がっても、パスは来ないし。

 「それなら、自分で!」と強引にシュートを打っても、疲労で足はプルプル状態。力はなく、枠も外れるし。

 「あと1点」と鼻息を荒くして、貪欲になればなるほど、3点目は遠かった…。

 自力がダメなら他力だ、と。もしもチームメイトがPKを獲得したら、キッカーを「5000円で譲ってくれない?」と頼もう。なんてことすら考えた。

 MFというポジション的な要因もあるが、「3点目はなかなか至難」とつくづく感じた。公式戦2点止まりでサッカー人生を終えた人、けっこういると思う。

 そんなこんなで達成できたハットトリック。私なりに分かったことがある。

 「2点取ったら、とにかく無欲」。これ、すごく重要。

 あの日を振り返りたい。

 前半の早い時間帯に1点目を決めた。数分後、味方のコーナーキックを相手DFがかぶり、ボールが私のもとに。ヘディングで2点目をゲット!

 後半ではなく、前半で2得点というめずらしい状況。

 

 「あれ、今日こそはいける!?」

 

 さすがに期待がふくらんだ。それでも、ハーフタイムで私は心を落ち着かせた。

 これまでの教訓がある。「欲」を抑え、ハットトリックのことは考えないようにした。後半はより平常心を心がけよう、と。

 すると、チャンスはおのずとやってきた。

 後半残り10分ぐらい。ペナルティエリア内でボールを受けた直後、背後からタックルを受け、倒された。まさかのPK奪取。

 「5000円でキッカー譲って」計画を考えていた自分が恥ずかしい…。無欲と平常心を心がけただけで、チャンスは向こうから勝手にやってきたのである。

 PK奪取直後、私は「ついにハットトリック達成だ~!」と心の中で叫び、確信した。まだPKを蹴っていないのに、なぜか確信した。だからなのか、まったく緊張せず、あっさりPKを決めた。

 メンタルって面白い。

 好きなサッカー、おっさんになるまで続けてきてよかった。

 念願達成に、心底思った。

 サッカーを与えてくれた神様に感謝(@ラモス瑠偉)。

 チームメイトに感謝。

 サッカーバカを相手にしてくれる家族にも感謝。

 

 サッカー人生いつ終えても悔いはないなあー。

 なんて思えるほど、私にとっては大きな意味があった。忘れないうちに記しておこうと思ったわけである。(まだ、やめられそうにないが)

 繰り返しますが、ハットトリックは「名誉」の証なんです!

 どなたか、私に「帽子」を贈ってください!!

by 北 コウタ
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