うまくなるためにやったこと ― 左足しか使えないルール

 利き足が右の人は、左足でもボールが扱えるよう頑張って練習する傾向があると感じる。

 左利きの人があまり右足を練習しないというわけではない。ただ、左利きの人は左足に対するこだわりが強く、あまり右足を使わない印象があるからだ。

 左利き(レフティ)は存在自体がマイノリティー。チームで重宝されるので、左足でプレーしてナンボ。右足にこだわる必要はないのかもしれない、とも思う。

 きれいに弧を描くキックの弾道。プレーのしなやかさ(選手にもよるが…)。ターンしただけで、相手の逆を取っているように見える感じ。対称なだけなのだが、右利きが見るからこその視覚的な錯覚なのだろうか。

 ウダウダと言いだしたが、要はレフティに対する「あこがれ」があるのである。

 小中学生のころはあまり左足の練習をしなかったと記憶する。

 以前、中学時代にサッカー部のキャプテンが左足の感覚を養うために突然左手で給食を食べだした話を紹介したが、真似した私はすぐに挫折。左足に対する意識はまだ低かったのだろう。

 高校時代は部活の居残りで左のキック練習をしたが、グラウンドを囲うネットに向かってひたすら蹴るだけ。たまの頻度でちゃんと蹴られるようになった実感はない。

 やっぱり苦手なことを克服するには強い目的意識が必要だ。でないとモチベーションが上がらない。

 大学時代、そんな私に「左足が使えるようになりたい!」という強烈なモチベーションを与えてくれた選手がいた。

 

 元ブラジル代表のレオナルド・ナシメント・ジ・アラウージョである。

 

 Jリーグ創成期に日本のサッカーファンの心をわしづかみにした鹿島アントラーズの「貴公子」、あのレオナルドだ。(本名、いつでもパッと言えます)

 レオナルドは1993年のトヨタカップ決勝で来日していたが、そのときはサンパウロFCのメンバーという記憶しかなかった。

 翌1994年のFIFAワールドカップ(W杯)アメリカ大会を見て、一気に引き込まれた。

 W杯では負傷中のブランコに代わって本職ではない左サイドバックを務めた。レオナルドはDFの立ち位置で本来のMFらしいテクニカルかつ華麗な攻撃的プレーを披露。魅了された。しかも容姿端麗で長めの髪をなびかせるイケメンだ。

「こんなにうまくて、かっこいいサイドバックいる!?」

 レオナルドの鹿島入りはW杯開幕前にすでに決まっていたのだけど、「本当に来日するのか」とちょっと信じられなかったぐらいだ。

 トラップすると見せかけて、ターンして決めたヴェルディ川崎戦のJリーグ初ゴール。あの衝撃は忘れられない。個人的には、語り草となっている横浜フリューゲルス戦の「リフティングゴール」よりも好きな得点だ。

 話し出すと止まらないのでレオナルドの思い出はまた次の機会にしたい。とにかく、私のアイドルだった。

 当時、大学生だった私は、「レオナルドになりたい」という気持ちが強くなっていた…。

 プレーを真似するためには、左足でボールを扱えなければならない。練習するしかない。

 

 そして考えたのが、「一定期間、左足しか使ってはいけないルール」だ。

 

 ルールはいたって単純。サッカーの練習中、どんな状況だろうと、どんな体勢だろうと、どこからボールが来ようと、絶対に右足を使ってはいけない。使えるのは左足だけ。そう決めてプレーする。

 要は、強制的に、無理やりに、とにかく左足を使う機会を増やしたのである。「そこは右足でしょ!」って場面でも、あえて左足を使ってプレーする。

 大学2年の春ごろだったと思う。このルールを2カ月間ぐらい続けた。

 で、結論から言うと、かなりの効果を得られた。そう実感している。

 そもそも、こんなやり方は中高時代の部活動などではできないだろう。

 下手くそな「左足」だけしか使えないので、キックミス、コントロールミス、判断ミスなど、最初はミスが多発するわけで。勝手にやるのは自由だが、チームプレー的には迷惑をかけるし、やっている自分自身ももどかしいのである。

 なので、体育会系の部活動ではない、大学の同好会レベルというエンジョイが基本のサッカー環境だったからこそ、自分勝手にチャレンジできた。

 そんなこんなで始めた「左足ルール」。最初はぎこちなかったが、続けていくと、やはり徐々に慣れていった。

 左足でトラップするために体の向きをあらかじめ準備したり、うまく扱えないことがわかっているので、状況によってはトラップせずにワンタッチで簡単にはたいたり。ショートパスの精度も上がっていく。キックの力加減もだんだん分かってくる。

 左足一本でも、それなりにプレーできるようになっていった。

 ある日の練習中。飛んできたハイボールに対し、左足をやや高く上げ、インサイドでピタッとトラップできたことがあった。「いまのトラップ、レオナルドみたいだったよ」と言われ、ニヤリとした思い出がある。レオに近づけたと…。

 たったの2カ月間だが、強制的に叩き込んだ「左の感覚」は、脳や身体にけっこうなインパクトがあったようで、その後も失われなかった。

 例えば、たまに無意識に出るプレーがある。

 相手DFに急に寄せられたとき、左足のアウトサイドでとっさにボールを左へ運び、相手をかわすことがある。これが無意識に出たときは、必ず相手をかわせている。相手は、右利きで右側を見ている私が左のアウトでかわすことはないと予測し、逆を取られたかたちだ。

 右利きの私が「とっさのとき」に左足が出る。そんな感覚を養えたのも、大学時代の“あの2カ月間”があったからだと強く思う。

 ちなみに、「なぜ2カ月? もう数カ月続ければもっと効果があったのでは」と思われるだろうが、利き足(右足)が使えないストレスも相当なもので、2カ月が限界だったわけである…。

 ということで、「一定期間、左足しか使ってはいけないルール」は効果大! と、結論づけたい。

by 北 コウタ
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