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【“私だけ”がときめいた、あのプレー】ホン・ミョンボ(洪明甫)/韓国代表/1994年

“私だけ”がときめいた、あのプレー_ホン・ミョンボ
 “私だけ”がときめいた…。皆さんには、心に残るそんなサッカー選手のプレーはないだろうか。私にはある。他人が見れば「ただの上手いプレー」だが、やたらと脳裏に焼きつき、向上心をかき立てられたプレー。スロー再生を繰り返し、何度も見てしまったプレー。そんな“私だけ”がときめいたプレーを映像とともに紹介したい。興味のない方はスルーで…。

 日本サッカー最大のライバルとして、日々韓国サッカーも注意深くウォッチングしているが、そもそも韓国代表や韓国人選手を追うようになったきっかけの選手がいる。

 ホン・ミョンボ(洪明甫)だ。

 1994年のワールドカップ(W杯)アメリカ大会で、彼が放った「スーパーミドル弾」に魅了されたのである。以来、韓国サッカーを強く意識するようになった。

 「ドーハの悲劇」で涙をのんだ日本代表はこの大会に出場していない。だから、同じアジアの代表である韓国の試合に注目した、という背景もあった。

 ホン・ミョンボといえば、Jリーグでプレーした日本でもお馴染みの選手。1969年生まれで、カズ(三浦知良)よりも2つ年下の世代だ。

 現役時代は冷静かつサッカーIQの高いプレーが光るDF、とくにリベロとして名を馳せた。視野が広く、MFもこなせた。W杯は4大会に出場。母国の代表監督としてW杯を率いたこともある。

 そんなホン・ミョンボに釘付けになったのは、1994年W杯予選グループCの対ドイツ戦。韓国では歴史に残る名勝負として語り継がれる。

 当時25歳のホン・ミョンボは、韓国中が認め、将来を託す逸材。

 その期待どおり、初戦のスペイン戦では1得点1アシストの大仕事。評価は急上昇していた。「奇跡の同点弾」を生んだ芸術的なラストパスはいま見ても美しい。(「おまけ」として動画に収録)

 試合前、韓国は2戦2分け。負ければ予選突破が絶たれる「背水の陣」だった。

 一方、ドイツは1勝1分け。マテウス、クリンスマン、ヘスラー、ブッフバルトら1990年イタリア大会を制したメンバーが軸で優勝候補だった。(前回優勝時は西ドイツ)

 試合前半、韓国はドイツに圧倒された。12分、20分に失点。さらに37分にも追加点を献上。0-3。力の差を見せつけられた。

 「やっぱりドイツは強えーな」「試合は決まったな」と、誰もが思ったはず。

 3失点後、韓国はMFを下げ、DFを交代投入。そして、3バックの一角だったリベロのホン・ミョンボを中盤のアンカーの位置に上げ、司令塔にすえた。

 すると、ここから韓国は怒涛の追い上げを見せる。

 後半早々の7分。FWファン・ソンホンが1点を返す。ホン・ミョンボが中盤に上がってから、韓国のポゼッション率は高まっていた。

 そして後半18分、韓国の望みをつなぐ一撃をホン・ミョンボが放つ。“私だけ”がときめいたプレーだ。

 自陣右サイドでボールを奪った韓国は、ホン・ミョンボを起点に左サイドへ展開。ボールを受けたMFコ・ジョンウンがアーリークロスを放り込んだ。しかし、ドイツDFに跳ね返されてしまう。

 クリアボールはペナルティーエリアを越えるまで戻されたが、その落下地点にいたのがホン・ミョンボ。トラップして、すばやく右へ持ち出し、対峙するドイツDFをかわすと、迷わず振り抜いた。

 ボールは無回転ぎみにややブレながら、キーパーから逃げるような軌道を描く。GKイルクナーが必死に飛ぶも、届かず。右のサイドネットに吸い込まれた。

 

 ミドル一閃。沸き立つ会場。2-3。韓国まさかの肉薄!!

 

 「おおおおお!!! ホン・ミョンボ、かっけぇー!!!!!」って、そりゃなる。

 人差し指を天に突き上げるゴールパフォーマンスも印象的だった。

 勢いづく韓国はさらに攻めた。浮足立つドイツは焦りがみえた。

 試合終盤、会場となったダラスの暑さもドイツを苦しめた。35度を超える気温に、平均年齢が高めのドイツの足が止まりだす。一方、韓国は真骨頂のスタミナと精神力で「粘り」をみせたが…。

 試合はそのまま2-3で終了した。

 韓国は前回王者のドイツを追い詰めたものの、あと一歩及ばず。予選敗退となった。

 ちなみに、この試合には裏話がある。後半の不甲斐なさに怒ったドイツのサポーターが客席からブーイング。それに腹を立てたMFエッフェンベルクが中指を立て、挑発的な態度をとったため代表チームから追放、強制帰国させられたのである。違った意味でもサッカー史に記憶される試合となった。

 強国ドイツに臆せず、果敢に1対1を仕掛ける韓国選手の姿勢に、私は当時の日本代表には無い経験値を感じざるを得なかった。それは「W杯を知る経験値」だ。

 その象徴となったホン・ミョンボの“一撃”。韓国サッカーを強く意識し、興味を持つきっかけになったのである。

 日韓戦が大好物となり、「韓国だけには絶対に負けてはならない」と常にライバル感情を抱いているわけだが、一人のサッカー選手として好きな韓国人は何人もいる。

 その中のトップがホン・ミョンボ。どうしても見たくて、ベルマーレ平塚(現湘南ベルマーレ)の試合に足を運んだ思い出が懐かしい。いまも大好きだし、リスペクトしている。

 最後に余談だが、かつて中国へ留学して間もないころ、韓国人留学生に呼び出され酒を飲んだ。言葉が通じず、会話がままならなかったにもかかわらず、このドイツ戦の韓国スタメン選手の名前をスラスラ挙げたことで彼らを驚愕させ、一夜にして信用を得て、受け入れられた。そんなことがあった。

 あれもホン・ミョンボのおかげだなーと思う。<敬称略>

(了)

by 北 コウタ
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