WEリーグ&なでしこ

W杯で大ブレークの宮澤ひなたが示した「高校女子サッカー」の価値

W杯2023でインタビューを受ける宮澤ひなた
W杯試合後のインタビューに応じる宮澤ひなた(source: fifa.com

 オーストラリアとニュージランドで開催中のFIFA女子ワールドカップ2023(W杯)。日本代表(なでしこジャパン)はベスト8で敗退し、12年ぶりの世界王者奪還はならなかった。

 8強進出までは盤石の戦いぶり。「優勝」の二文字がちらつく勢いだった。その中で5試合で5得点をあげたMF宮澤ひなたの活躍は世界を驚かせた。各国メディアがそのプレーを絶賛。大会終了後の海外移籍はあるだろうか。

 宮澤は現在、マイナビ仙台レディースに所属する。クラブは6月にWEリーグ2年目のシーズンを終え、成績、集客数ともに初年度を上回った。

 その中心にいる唯一の代表選手が宮澤だ。海外移籍となればクラブ、サポーターにとっては「うれしい悲鳴」となる。

高校女子サッカー出身の宮澤ひなたは後輩の「あこがれ」

 大会中、宮澤の地元である神奈川県南足柄市がたびたびニュースで報じられた。大画面を前に声援を送る家族ら地元の人々の姿だ。

 宮澤は3つ年上の兄の影響でボールを蹴り始め、地元のサッカークラブに入団。中学時代はSEISA OSAレイア湘南FC・U-15で過ごし、県内の星槎国際高校女子サッカー部に入部した。

 高校1年時の2015年にU-16日本女子代表の候補合宿に初めて招集され、同年に中国で開催されたAFC・U-16女子選手権に出場。世界への切符をつかむと翌年ヨルダンで開催された2016FIFA・U-17女子W杯に出場し、日本の準優勝に貢献した。

 高校3年時は主将としてインターハイで全国3位に。卒業後の2018年に日テレ・ベレーザに入団し、2021年からマイナビ仙台レディースでプレーしている。

 宮澤は地元南足柄の「期待の星」であり、母校の後輩や「高校女子サッカー」に打ち込む全国の少女たちにとって「あこがれ」の存在だ。

W杯なでしこ23人中、高校女子サッカー出身は6人だった

 そんな宮澤ら「高校女子サッカー」出身の選手は、現なでしこメンバーでは少数派だ。

 W杯が開幕した7月、本サイトはなでしこメンバー23人の経歴について詳しく伝えたが、高校女子サッカー出身の選手は6人と少ない。全体の約7割を占める17人がクラブ育ちおよびJFAアカデミー福島の出身だったのである。(いざ女子W杯2023! 調べてわかった「なでしこメンバー」の“勢力図”を参照)

 ちなみに、2022年W杯カタール大会を戦った男子の「サムライブルー」の場合、登録選手26人のうち高校サッカー出身者は13人だった。

 高校女子サッカーの歴史は浅く、「全日本高等学校女子サッカー選手権」(選手権大会)が始まったのは1992年。その普及や盛り上がり、選手人口の数にも少なからず関係がありそうだ。

佐々木元監督がニュージーランドで高校女子サッカーに言及

 それを意識してのことだろうか。

 女子W杯開催中のニュージーランドで、元なでしこジャパン監督の佐々木則夫・現日本サッカー協会(JFA)女子委員長が「高校女子サッカー」について言及した。7月29日のことだ。

 内容は選手権大会の出場校数の増加について。

 現行の全国大会は9地域の代表32校で行われているが、2024年度からは各都道府県の代表47校プラス1校(開催枠)で開催するという。(*)

 その目的はもちろん、高校女子サッカーの裾野拡大だ。

 JFAは各都道府県で予選大会を開催することで、女子サッカー部の新設につなげたい考えだ。女子サッカー部がない高校の多い地域では、小学校、中学校の卒業と同時にサッカーをやめてしまう少女も少なくない。

女子W杯でプレーする宮澤ひなた
なでしこメンバー23人のうち高校女子サッカー出身者は宮澤ら6人のみ(source: getty images)

 佐々木委員長は「全都道府県から各1校が出場できる状況をつくり、地域にいる少女たちが、小学校以降もサッカーを続けられれる環境を用意したい」と話した。

 ところで、これらは7月13日のJFA理事会で決定、報告されていたこと。なぜ、佐々木委員長はわざわざW杯の開催地ニュージーランドで言及したのか。

 もしかすると、高校女子サッカー出身の宮澤の大ブレークにその価値を見いだし、特別なメッセージにしたかったのかもしれない。起爆剤になると考えて。

 W杯は8強敗退に終わったが、長く停滞していた女子サッカー熱に「地殻変動」が生じたと信じたい。

 「幸い」にもパリ五輪予選という次の戦いが10月にすぐ始まる。高校サッカーを含めた女子サッカーの“再ブーム”。起こってほしい。

(了)

*… 24年度と25年度の2大会は、移行期間として47都道府県代表プラス5校の52チーム制で実施される。

by KEGEN PRESS編集部
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