WEリーグ&なでしこ

8月のU-20W杯前に“すでにいる海外組” 「ヤングなでしこ」の顕著な変化

U-20AFC女子アジアカップに出場したヤングなでしこ
AFC・U-20女子アジアカップ2024の中国戦で得点をあげ喜ぶ「ヤングなでしこ」(source: the-afc.com

 3月、AFC・U-20女子アジアカップ2024に出場した日本代表が準優勝し、今年8月31日にコロンビアで開幕する2024FIFA・U-20女子ワールドカップ(W杯)への出場権を手にした。

 「ヤングなでしこ」(20歳以下の女子日本代表)にとってアジア予選は通過点。近年はU-20W杯出場の常連国であり、優勝の経験もある。若くして世界を経験する選手が2年ごとに生まれ、日本の女子サッカーのレベルを底上げしている。

 そんな中、アジア予選を戦ったメンバーの中にすでに欧米でプレーする「海外組」が3人もいたのには驚いた。

 欧米のクラブによるWEリーガーの「青田買い」傾向が、2021年ごろから強まっているとは感じていたが、スカウトの目はユース年代にまで向けられているようだ。

アジア予選メンバー中、10番松窪ら3選手が欧米でプレー

 アジア予選メンバー中の海外組は、松窪真心、小山史乃観、林愛花の3選手。

 10番を背負う松窪は、アメリカの女子プロサッカーリーグ(NWSL)所属のノースカロライナ・カレッジでプレーする攻撃的な選手だ。中高時代をJFAアカデミー福島で過ごし、高校卒業を待たずにベガルタ仙台レディースに加入。その後、半年も経たない2023年7月にレンタル移籍で渡米した。現チームメイトにはフル代表(なでしこジャパン)の三浦成美や小林里歌子がいる。

 一方、小山と林はMFからDFまでをこなす守備的な選手だ。

ヤングなでしこで10番を背負う松窪真心
10番エースで「海外組」筆頭の松窪はクラブ事情のためグループ予選後に離脱。アメリカへ戻った(source: the-afc.com

 小山は、セレッソ大阪ヤンマーレディースの下部組織の出身。今季からWEリーグに参入した同クラブの事情もあり、昨年半シーズンはINAC神戸レオネッサへレンタル移籍した経歴を持つ。今年2月にセレッソ大阪からスウェーデン女子1部のユールゴーデンIFへ移籍したばかりだ。

 林は、JFAアカデミー福島で松窪と同期生。卒業後に渡米し、アメリカ女子2部のクラブに加入した。その後、2024年からサンタクララ大学へ進学することが決定。進学までの空白期間を利用し、昨年年8月から12月までINAC神戸レオネッサに所属し、WEリーグを戦った経験を持つ。

「飛び級招集」による育成強化 その先に起きた変化

 松窪、小山、林の3選手に共通するのは、2022年に開催されたFIFA・U-20女子W杯コスタリカ大会の準優勝メンバーだということ。当時は飛び級で招集された。

 近年、ユース年代の女子日本代表メンバーには必ず「飛び級招集」の選手が数人いる。

 飛び級で招集された選手は同世代の選手よりも一足先に世界を経験し、その後、自らの年代では中心となってチームを引っ張る。そして、そのチームにも一つ下の世代の飛び級メンバーがいて、また次の世代を彼女らが引っ張っていく。日本サッカー協会の育成戦略の一つだ。

 こうした育成の好循環がフル代表の「なでしこジャパン」を底上げし、世代交代を含めた活性化を促している。現なでしこジャパンの中心メンバーで、海外で活躍する長谷川唯や長野風花も「飛び級招集」を経てステップアップした選手だ。

 だが、長谷川や長野も、欧米のクラブに移籍したのはU-20女子W杯での活躍が認められてからのこと。松窪らと同じ2022年のU-20女子W杯準優勝メンバーでいえば、大会MVPの浜野まいかが、大会後の2023年1月にイングランドのチェルシーに引き抜かれた(浜野は現在、スウェーデン女子1部のハンマルビーIFにレンタル中)。

 そう考えると、今回の「ヤングなでしこ」には今夏のU-20女子W杯本大会を前に、すでに欧米のクラブでプレーする海外組が複数人いることになる。過去に例を見ない、顕著な「変化」であり、育成強化がうまくいっている証拠だろう。

 さらに言えば、「国内組」の顔ぶれを見ても、すでにWEリーグで出場経験が豊富な選手が多数。中には主力として活躍する選手もいる。

高校生がフル代表入り 谷川と古賀が示した“新時代”

「ヤングなでしこ」の底上げ、変化を強く印象づける選手はほかにもいる。

 2023年秋に中国で開催されたアジア大会の優勝に貢献したMF谷川萌々子とDF古賀塔子だ。大会で見せた実力と安定感、そのポテンシャルの高さは衝撃的だった。

高校生でフル代表利子した古賀塔子と谷川萌々子
高校生でフル代表入りし、欧州移籍。“なでしこ新時代”を示した谷川萌々子(右)と古賀塔子

 2人はすぐにフル代表に招集され、同年11月のブラジル遠征で揃ってデビュー。

 さらに今年1月、谷川はドイツのバイエルン・ミュンヘンと、古賀はオランダのフェイエノールトとそれぞれ契約を締結。成長の舞台を欧州へと移した(谷川は現在、スウェーデン女子1部のローゼンゴードにレンタル移籍中)。

 谷川と古賀はJFAアカデミー福島の同期生。この3月に高校を卒業した「ヤングなでしこ」よりも下の世代だ。にもかかわらず、2月のパリ五輪出場をかけた北朝鮮との“大一番”にも揃って出場した。

 2人の登場は「なでしこジャパン」の選手層、メンバー競争が“新たな時代”に入ったことを示した。

 当然、谷川と古賀はU-20W杯に出場が可能だ。本大会のメンバー入りはあるのか。それともパリ五輪に出場し、U-20W杯は不参加か。パリ五輪は8月11日に閉幕するため、いずれも出場可能ではある。

 谷川と古賀、前述の浜野が出れば、海外組は6人。

 さらに現フル代表の藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属)も出場可能な世代であり、本大会前に海外移籍している可能性がある。

 藤野が海外組として入れば、7人。U-20女子W杯優勝への期待値はぐっと上がる。(ただ、藤野はパリ五輪の主力だけに招集は不透明だが)

(了)

by 北 コウタ
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