高校サッカー

もはや「セオリー」!? 高校サッカーに見るロングスロー

青森山田高校のロングスロー
高校サッカーにおけるロングスロー対策はいまや必要不可欠だ
 ここ数年の高校サッカーで圧倒的に増えた攻撃パターンがある。ロングスローだ。敵陣深くで得たスローインを、強肩の選手がゴール前まで放り込み、得点チャンスを演出する。実際に多くの得点シーンを生み出している。数年後には「トレンド」を超えて「セオリー」になりそうな勢いだ。そんなロングスローについて深堀りしてみたい。(クン/フリーライター)

ロングスロー時の攻撃側選手の配置、動き方

 「ロングスロー」と聞くと、青森山田高校を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。だが、今回の全国高校サッカー選手権101回大会では、半数以上の高校がロングスローを使っている。(ロングスローを駆使し、過去5大会でそれぞれ2度の優勝、準優勝を果たした青森山田高校の影響であることは間違いないだろう)

 ロングスローで圧倒的に多い得点パターンは、ニアサイドでボールをファーサイドにそらし、こぼれたところを詰める形。そしてこの時、カギになるのが「2人」の選手がニアに走りこむことだ。

 1人がゴールキーパー(GK)の前、もう1人はその後ろで待機する。前者はGKが飛び出してパンチングしようとするのを牽制する。後者がいることは相手のマークを分散させるのに効果的だ。

 飛んできたボールをこの2人のどちらかが後ろへそらし、ファーサイドにいる味方がゴールに押し込む。時には高校生の身長や身体能力ゆえ、ニアサイドで攻撃、守備の両陣も高い軌道のボールに触れられず、混戦の中でゴールイン、なんてこともある。

 また、ロングスローを行う攻撃側は、大抵ペナルティーエリアの少し外に選手を2人程配置するため、GKのパンチングや相手ディフェンダーの中途半端なヘディングのクリア等を回収でき、波状攻撃を続けやすい。これに対し守備側は、エリア内の人数を減らせないので対策を打つのが難しい。結果、ロングスローにより多くの得点が生まれている。

守備側はどう対応すればいいのか? 2つの対策案

 多用されるロングスローに対し、守備側も対策を講じなければ複数点を取られて敗戦、なんてことになりかねない。きれいに崩して取った得点も、美しいフリーキック弾も、ロングスローで取った泥臭いゴールも、1点は1点。ロングスローの対策なしに高校選手権を勝ち上がるのは困難といっていいだろう。

 では、どのような対策がロングスロー攻撃を抑えるのに効果的なのだろう?

 筆者から2つの対策を提案したい。ただ、いずれの対策も試合状況や時間帯、スロワーによって使える「条件付き」であることを前置きしておきたい。

■ニアに選手を集め、「ニア勝負」で跳ね返す

 1つ目は、「ニアに選手を集める」こと。浅い位置からのロングスローや、スロワーの投げる力がさほど強くない時などに有効だろう。

 というのも、インターネットに上がっている選手権でのロングスローの動画を見る限り、その多くはニアまでしかボールが飛んでいないからだ。にもかかわらず、ほとんどの高校がニアの攻撃選手2人に対し、2人のディフェンダーをマンツーマンでしかつけていない。

 この場合、残りの守備選手をファーに回すわけだが、飛び込んでくる相手より先にボールに触れることは簡単ではない。なぜなら、飛び込んでくる勢いと、「触ればゴールに入る」という心理が有利に働き、攻撃選手が先に触る確率を大幅に上げるからだ。よって、ニアに人数をそこまでかけず、「ファーでの攻防次第」とするのは実は危険度が高い。初めからニアに多くの選手を配置し、なんとしてでもニアで跳ね返す。つまり、「ニア勝負」が有効だと考える。

 しかし、スロワーが強肩でなくても、もしも195cmくらいの超高身長選手がニアにいて、ボールを跳ね返せなった場合は大ピンチに陥る。また、ごく稀にエリア中央までスローを飛ばせる強肩の選手がいる(例えば、99回大会の青森山田高校・鈴木琉聖選手)。したがって、深い位置でのスローやスローワーの投げられる距離がわからない試合序盤は、正直リスクをともなう。この対策は避けるのがベターだろう。

■攻撃的な選手を前線に残し、ゴール前の密集を下げる

 2つ目の対策は、「攻撃的な選手を2人か3人前線に残す」作戦だ。

 例えば、攻撃側がコーナーキックを行う際、基本セオリーとして、カウンターを警戒して「前線に残っている相手の数+1」人の守備選手を残すのはマストだ。これを利用し、あえて「攻撃的な選手を2人か3人前線に残す」。相手に半強制的に守備(カウンター対策)に枚数を割かせ、ゴール前の密集度を下げるのが狙いだ。

 ロングスローでの得点シーンを見て、「なんかごちゃごちゃして入った」と感じたことはないだろうか? ロングスローでの得点は、そうしたゴール前の密集によって引き起こされる「混雑した状況」に頼った部分が小さくないため、密集度を下げるのはかなり効果的といえるだろう。

             ◇

 多くの高校が苦戦しているロングスロー。全国大会に出場するほとんどの高校の監督にとって、対策を練ることは必要不可欠になっている。高校サッカーをより楽しむために、ロングスローでの攻防にも目を向けてみてはいかがだろうか。

(了)

by クン(フリーライター/FC東京サポーター)
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