Jリーグ

アルベル体制1年目のFC東京の評価と課題は? ― 熱烈サポが総括!(1/2)

円陣を組むFC東京の選手
(source: getty images)
 スペイン人のアルベル監督の就任やIT大手のミクシィによるクラブ経営など、2022年のFC東京はピッチ内外で多くの変化を求めた。今季のJリーグ6位をどう評価すべきか? 来季に向けた改善点は? 東京生まれのサッカーバカで、FC東京の熱烈サポーターのクンさんによる総括レポートを2回に分けてお届けする。第1回は、アルベル監督が目指すサッカーと1年目の評価、高卒ルーキー松木玖生の活躍について。

 

長谷川前体制から真逆のスタイルへ転換 今季はベース構築の1年

 今季、FC東京はリーグ戦6位(14勝7分13敗/46得点、43失点)でシーズンを終えた。筆者がこの数字を評価するなら「可」といったところだろうか。

 基本的にボールを支配してゴールを狙う攻撃的なスタイルなので、総得点は55点くらいはほしかった。また、守備陣にはリーグ屈指のセンターバックの森重真人やポーランド代表歴もあるヤクブスウォビィクがいることを考えると、43失点は正直多い。

 だが、今季のアルベル体制の最も大きな目標は、ポジショナルサッカーのベースの構築。4年間指揮を執った長谷川健太前体制が堅守速攻型だっただけに、この真逆のスタイルからの転換はわれわれの想像以上に難しかっただろう。現在所属する選手の多くは長谷川体制時に加入した選手である。

 それを踏まえると、6位という成績は十分に評価に値するだろう。

 長谷川体制時の長年の課題だった“個人頼みのサッカー”ゆえの「上位への相性の悪さ」は改善され、個が勝る格上クラブからも組織的かつ一貫した戦い方で多くの勝ち点を奪った。しかし一方で、下位相手には縦に速いサッカーを展開されて後手に回り、勝ち点を取りこぼす試合が散見された。

 今後は相手の戦術に合わせ、サッカーやメンバー選考を変えられるようになれば、次のステージへと進むことができるだろう。

アルベル監督が目指すサッカーの真髄は「立ち位置の優位性」

 アルベル監督は自らが理想とするサッカーを「ポジショナルサッカー」と銘打った。多くの人はボールを支配する、それこそ彼がかつて育成に携わったFCバルセロナのような「パスサッカー」だと解釈するのではないだろうか。

 確かに、アルベル監督はボールの主導権を握るサッカーを志向する。だが、彼の目指すポジショナルサッカーの真髄は「立ち位置における優位性」といえるだろう。

アルベル監督
かつてFCバルセロナの育成に長く携わったアルベル監督(source: getty images)

 ボール保有時にはトライアングル、さらにはダイアモンドを作り、自陣からのビルドアップを行う。この時、近年トレンドとなっているサイドバックを内側に配置して繋ぎ役に参加させる「偽サイドバック」などにより、中央エリアに厚みを持たせることが特徴的だ。

 一方、ボールを保有しない時の守備のコンセプトは比較的シンプルだ。ハイラインを敷き、センターフォワードのディエゴオリヴェイラがスイッチを入れ、ウイング、インサイドハーフがそれに呼応して前線からボールを奪いに行く。

 その中でアルベル監督の独自性を挙げるなら、4-1-2-3システムの2、つまり「インサイドハーフ」の人選だろう。

 FCバルセロナが全盛期だった2000年代から2010年代前半、インサイドハーフで活躍したのはイニエスタやシャビ、ラキティッチといった足元の技術が高い選手だった。しかし、アルベル監督はシーズン前半戦、2人のインサイドハーフに安部柊斗と松木玖生を主軸に据えた。

 2人に共通する武器は、走力と球際の強さだ。ボールを持っている時のパスや突破力などの技術は高萩洋次郎(今年7月に栃木SCへ移籍)や東慶悟、三田啓貴に比べれば高くはないが、彼らにほとんどスタメン奪回のチャンスを与えないほどのパフォーマンスを見せた。

 インサイドハーフが常に走り回り、守備でも多くの場面で「数的優位」を作る。夏の移籍市場でおおむねタイプが似ている塚川孝輝を川崎フロンターレから獲得したことも、アルベル監督のインサイドハーフに求めるこだわりが表れている。

サッカー界に衝撃を与えた松木玖生 活躍の要因は「修正力」

 アルベル監督が重視するインサイドハーフに、今季高卒ルーキーながら起用され、その期待に応えた松木玖生の活躍は日本サッカー界に大きな衝撃を与えた。

 Jリーグ開幕戦でスタメンに抜擢されプロデビュー。針の穴を通すようなパスで決定機を創出したかと思えば、強烈なミドルシュートで会場を沸かせた。結局彼は、シーズン開幕前にささやかれた実力に対する多くの懐疑的な声を押しのけるようにめきめきと成長した。

 松木は今季リーグ戦31試合に出場し、世代別の代表にも主力として呼ばれ続け活躍。FIFAW杯カタール大会の日本代表サポートメンバーにも選ばれた。

 ではなぜ、彼はここまで順調に力をつけられているのか。松木といえば「メンタルの強さ」で有名だが、少し違う視点から見てみたい。

 それはズバリ、「修正力」である。

 例えば、警告を受けた回数。松木は第6節の横浜FM戦でイエローカード2枚をもらい退場したが、それ以降は25試合で2枚しかもらっていない。横浜FM戦以降の試合を見ると、ボール奪取に対する意識の変化は明らかだった。

松木玖生
高卒ルーキーながら今季Jリーグ31試合に出場した松木玖生(source: getty images)

 不用意なスライディングは減り、高校時代に鍛えた恵まれた身体の使い方もより柔軟になった。分が悪い状況では良い意味で行き過ぎず、五分五分もしくは自分が有利な場面では激しくアプローチし、体を入れてボールを奪い取る。高校時代のやや粗削りな印象は試合を重ねるごとに消え、あっという間にチームに欠かせない存在になった。

 また、彼の「修正力」は試合中にも発揮されていた。

 相手チームが前からハイプレスをしかけ、自分たちのビルドアップが上手くいかない時、松木は1列降りてサポートする。逆に相手がブロックを敷いてきて、外回りのパスばかりになっている時は、くさびのパスをもらおうと中央の高い位置で動き、攻撃の起点になることを意識する。松木は常にピッチを俯瞰(ふかん)し、自らの立ち位置の修正に努めていた。さらにそれを高いレベルでこなしていた。

 順調な成長をみせる松木だが、来季への課題を挙げるなら得点力だろう。

 ポジションやルーキーイヤーということを考えれば、今季の2得点は悪い数字ではないが、2、3列目が積極的に飛び出すアルベル監督のサッカーにおいてインサイドハーフの得点力は重要だ。青森山田高校時代はインターハイで得点王になった経験もあり、もともとシュートセンスを持つ選手であるこは間違いない。来季はフィニッシュの精度を高め、さらなる活躍を見せてほしい。

アルベル体制1年目のFC東京の評価と課題は? ― 熱烈サポが総括!(2/2)に続く

by クン(フリーライター/FC東京サポーター)
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