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ついに出た、香川真司が初の自叙伝。『心が震えるか、否か。』にこめた思い

香川真司自伝

 元日本代表の香川真司(ギリシャ1部リーグPAOK所属)が自身初めてとなる自叙伝を出版した。

「心が震えるか、否か。」――。

 心にささる、しびれるタイトルに思わず手が伸びた。

 香川の魅力は素早いターンや柔らかいボールタッチ、創造性豊かなプレーだ。長く日本代表の10番を背負い、人懐っこい笑顔で子供から大人まで幅広い層のサッカーファンに愛されてきた。

 待望の自叙伝がついに出版された。

選択の判断基準は「心が震えるかどうか」

 たいていのスポーツ選手は自身の絶頂期に自叙伝を出すことが多いと感じるが、なぜこのタイミングなのか。香川ほどのスター選手ならもっと以前に出していてもおかしくない。

 まえがきを読むと、その理由が少しわかった。香川はこの本を通して、主に2つのことを伝えたかったという。

 一つは、「『心が震えるか、震えないか』によって様々な『選択』をすることにより、後悔をしないでほしい」ということ。

 香川は人生における「選択」について、「タイミングが重要だ」や「より困難な道を選ぶべきだ」という意見も理解はできるとしつつ、「でも僕の場合はちょっと違う」、「自分の『心が震えるか、震えないか』。それが判断基準なんだ」とつづっている。

 そしてもう一つは、「そうはいっても、一方で僕は数多くの失敗をしてきたし、後悔することもたくさんある。でも、そうした苦い経験があったから、色々なことを考えられるようになったし、歯を食いしばって頑張り続けることができた、ということ」。

 絶頂期での自叙伝なら栄光までの道のりで終わる。しかし30歳をすぎ、プロサッカー選手としては下り坂だと言われる年齢に差しかかったいまだからこそ、伝えられることがある。「心が震えた」多くの経験がある。そう考えたのではないだろうか。

迷い、悩んだときに何を大事にしたのか

 たしかに、ここ数年の香川真司のサッカー人生は紆余曲折だったと感じる。

 ワールドカップ2018ロシア大会の代表選考では最後まで当落選上にいた。愛着のあるボルシア・ドルトムント(ドイツ)を離れ、出場機会を求めて「格落ち」と言われたトルコ1部リーグへ移籍した。その後はスペインの2部リーグへ移った。そして今年1月に現所属のPAOKに加入するまでは、所属チームのない浪人生活も経験した。

 人生はうまくいくことばかりではない。迷い、悩んだときに何を大事にしてきたのか。

 香川は自らの経験をファンやサポーター、サッカーでプロを目指している人たちに伝えたいと考え、この本にこめたのだ。

 香川自身、人生のあるタイミングで、元サッカー韓国代表のパク・チソン氏や元プロ野球選手のイチロー氏の本を読んで、自分に置きかえ、考えてみたことがあるという。だから、自身の本もいつか誰かのきっかけになればいい、と考えたという。

by 北 コウタ
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