サッカー脳を育む

映画『フーリガン』で感じるサポーター「愛」。欧州新リーグ構想の崩壊も納得

映画「フーリガン」

 久しぶりに映画『フーリガン』を見た。これで3回目になる。

 2005年制作の米英合作映画で、熱狂的なサポーター「フーリガン」の青年たちを描いた物語。かれらを暴力へと駆り立てるものは何なのか。イギリスへ渡り、フーリガンの世界に魅せられるアメリカ人青年を『ロード・オブ・ザ・リング』のイライジャ・ウッドが熱演している。

 「また見たくなった」のは、大騒動となった「欧州スーパーリーグ構想」のせいだ。

 3日と絶たないうちに頓挫したこの構想。イギリス政府が「なんとしても阻止する」と反対の意を表明する異例の展開には驚いた。日本ではちょっと考えられない。イギリス社会に根付くフットボール文化の存在の大きさを改めて考えさせられた。

 その立役者はサポーターだという人もいる。イングランド各地で抗議の声が上がる中、チェルシーのサポーターによる大規模な抗議行動がクラブを参加辞退に追い込んだ。これが「潮目」となり、他クラブにも波及。構想崩壊ムードが一気に高まったと言われている。

 サポーターが掲げた抗議ボードには「FOOTBALL BELONGS TO US(フットボールはわれわれのものだ)」と書かれていた。イギリス発祥のフットボールは労働者階級の娯楽として育まれ、人々は歴史と伝統をつないできた。そこで生まれ育ったかれらの誇りであり、文化であり、愛すべきもの。そのフットボールが「奪われてしまう」。危機感を共有して立ち上がったサポーターたちの思いが通じた勝利だった。

 そんなサポーターのフットボール「愛」を感じられるのが『フーリガン』。サッカーバカの胸も熱くさせる大好きな映画だ。だから、また見たくなってしまった。血湧き肉躍る傑作なので紹介したい。

リアルに伝わるイギリスのフットボール文化

映画「フーリガン」の一場面
マット(右)はピートから「イギリスのフットボールとは何か」を教わる

 主人公のマット(イライジャ・ウッド)はルームメイトに麻薬所持の罪を着せられ、卒業直前にハーバード大学を退学させられる。

 失意のマットは姉が住むイギリスへ。そこで義兄のピート(チャーリー・ハナム)と出会う。ピートはウェストハム・ユナイテッドの「ファーム」と呼ばれるフーリガングループのリーダーをしていた。

 マットはピートに連れられ試合観戦へ。しかし、ファーム同士の抗争に巻き込まれてしまう。ケンカをしたことがない気弱なマットだったがピートたちと戦うことに。すると感じたことのない興奮を覚え、しだいにフーリガンの世界に惹きつけられられていく…。

 簡単なあらすじはこんな感じだ。

 フーリガンの実像だけを描いた映画ではない。痛々しい暴力シーンも多いが、仲間との絆を深め、一人の「男」として成長していく主人公を描いた“熱い”ヒューマンドラマだ。

 そして、この映画が好きな一番の理由はイギリスのフットボール文化がリアルに伝わってくるからである。

 「楽しもうぜ! フットボール・デーだ」

 ピートはマットを試合観戦に連れて行く。パブで仲間と合流し、ビールをあおって士気を高める。スタジアムまでの道のりを応援歌を叫びながら練り歩く。

 スタジアムに入り、ピッチを見渡したときのマットのうれしそうな表情。見ているこっちにもその興奮が伝わってくる。「もう最高だろうなぁ」と。

 また、マットとピートの会話にもイギリスのフットボール文化を知るヒントがある。

 「“サッカー”とは言うな、 “フットボール”だ!」
 「ウェストハムはプレーは『中』だが、ファームはトップクラスだ」
 「おれたちはケンカはするが、それは名誉のためだ」

 かれらの根底にあるのは生まれ育った街のフットボールとクラブへの愛情、そして誇り。だからケンカも命がけでやる。

 一方のマットは、ピートたちと行動をともにすることで「生きるため」に大切なものに気づいていく。

 「一番の誇りは、友達に支えられることじゃない。友達の支えになることだ」
 「男には、引かない時と、引くべき時がある」
  
 そんなフーリガンたちもふだんは真面目に仕事をしている。

 「ファームだけでは食ってはいけない」と言うピートは小学校で体育と歴史を教えている。ほかにも自動車修理工やテレフォンアポインターなどみんなそれぞれ。でも、FAカップ(イングランドサッカー最古のカップ戦)の組み合わせ抽選会になると、仕事そっちのけで片耳にイヤホンを付けて固唾(かたず)をのんで中継に聞き入る。

 かれらの生活の中にはやっぱり常にサッカーが、いや、“フットボール”があるんだよなぁ―。

 「欧州新リーグ構想」を頓挫させたイギリス・サポーターのパワー。そのすごさが、この映画を見るとそれなりに納得できる。

 そして、見終わったあとにまた思う。「いつかプレミアリーグを観に行くぞ!」と。

(了)

フーリガン / 原題:GREEN STREET
監督・脚本:レクシー・アレクサンダー
2005年制作 / アメリカ・イギリス合作 / 109分
by 北 コウタ
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