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ハーフ選手が少ない韓国サッカー カストロップA代表入りは転機か

イェンス・カストロップ
「外国生まれのハーフ選手」として韓国サッカーで初めてA代表入りしたイェンス・カストロップ。ドイツ人の父と韓国人の母を持つ(source: getty images)
 ドイツ生まれのハーフ選手イェンス・カストロップの韓国A代表デビューは、韓国サッカーのひとつの転機のように映った。というのも、韓国では活躍するハーフ選手が少ない印象があったからだ。なぜ少ないのか。調べてみると、そこには単一民族意識や兵役問題など、韓国特有の社会事情があった。韓国サッカーにおける帰化選手の歴史などもたどりながら、その背景を探った。

ドイツ生まれのハーフ選手カストロップがA代表デビュー

 韓国サッカー史上初めてとなる「外国生まれのハーフ選手」が、2025年8月にA代表入りし、話題となった。

 ドイツ生まれのMFイェンス・カストロップだ。

 カストロップは、ドイツ人の父と韓国人の母を持ち、2003年7月にデュッセルドルフで生まれた。

 フォルトゥナ・デュッセルドルフや1.FCケルンの下部組織でプレーし、2020年にケルンでプロ契約を締結。2018年にU-16ドイツ代表に招集されて以降は、世代別の代表に継続して名を連ねてきた。中盤ならどこでもこなせる万能型MFとしてA代表入りも期待される逸材だった。

 そんなカストロップが韓国サッカーの目に留まったのは2023年ごろ。

 当時のユルゲン・クリンスマン代表監督(元ドイツ代表選手)の働きかけにより交渉が始まり、同氏の退任後もその動きは継続された。

 韓国メディアによると、カストロップは韓国であらためて出生申告を行い、国籍を取得。その後、FIFA(国際サッカー連盟)への登録を韓国サッカー協会へ変更したという。

 そして2025年9月、アメリカとの親善試合でピッチに立ち、A代表デビューを飾った。

なぜハーフ選手が少ない? 前例が多い日本との違い

 以前から気になっていたことがある。韓国サッカーではハーフの選手が少ないという印象だ。

 Kリーグなどプロリーグの登録選手をくまなく調べたわけではないものの、「この選手はハーフなのだろうか」と感じる容姿の選手をほとんど見かけたことがない。世代別の国際大会でも同様の印象を受けてきた。

 一方、日本では世代別の代表を含め、ハーフの選手を見かける機会が多い。

 最近では高校サッカー選手権(全国大会)に出場する高校生の中でも、そうした存在が目立つようになっている。とりわけアフリカにルーツを持つ選手はフィジカルが強く、高いパフォーマンスを見せている。

 また、日本ではラモス瑠偉や三都主アレサンドロ、田中マルクス闘莉王ら、ブラジルにルーツを持つ帰化選手がA代表で活躍してきた歴史がある。一方で、韓国A代表にはそうした前例は見当たらない。

 韓国ならではの事情があるのではないか。そう感じ、以前から気になっていたわけである。

過去に韓国サッカーで活躍した帰化選手は複数人存在した

 過去に韓国サッカーで活躍した帰化選手はいるのか。調べてみると、予想以上に多く存在していた。

 先駆者は、韓国サッカー初の帰化選手となったGKヴァレリー・サリチェフ。

 かつてソビエト連邦を構成していたタジク・ソビエト社会主義共和国(現タジキスタン共和国)出身で、1992年にKリーグの一和天馬に移籍した。2000年に帰化すると、韓国語で「神の手」を意味する申宜孫(シン・ウィソン)に改名。韓国サッカー史上最高の外国人選手とも評されている。

 一方、同じく旧ソ連出身のMFデニス・ラクチオノフは、「Kリーグで最も長くプレーした外国人」と言われる。

 デニスは1996年、19歳で水原三星に加入。その後、移籍を繰り返しながら13シーズンにわたりKリーグでプレーした。2003年に韓国へ帰化し、2006年まで李城南(イ・ソンナム)という登録名でプレーしたという(その後、再びデニスに戻した)。

 このほかにも、クロアチア出身のDFヤセンコ・サビトヴィッチ(韓国名:李サビク/2004年に帰化)や、セルビア出身のFWラディボエ・マニッチ(2005年に帰化するも、家庭の事情により5カ月で韓国籍を放棄)などの帰化選手が活躍している。旧ソ連や東欧出身の選手が多かったようだ。

 ただし、いずれの選手もA代表に選出されることはなかった。彼らの帰化は、どちらかといえばクラブがKリーグの外国人枠をより有効に活用するための手段だったとみられている。

A代表強化をねらう帰化構想もあった

 一方で、A代表の強化をにらんだ帰化の動きもあった。

ジェナン・ラドンチッチ
ラドンチッチ(左)はJリーグの清水や大宮などでも活躍した(source: getty images)

 セルビア人FWサーシャ・ドラクリッチとブラジル人DFマシエウは、2002年のFIFAワールドカップ(以下、W杯)日韓大会に向けて韓国A代表入りがうわさされた。しかし、当時のフース・ヒディンク監督が受け入れを拒否し、実現には至らなかった。

 また、モンテネグロ出身のFWジェナン・ラドンチッチとブラジル出身のFWエニーニョについても、2012年に当時のチェ・ガンヒ(崔康熙)監督の意向のもとで帰化が推進されたという。
 
 2人に関しては、特定分野で優れた外国人に対して特別に帰化を認める「特別帰化」が検討されたようだが、結局実現しなかった。

「単一民族」「純血主義」がハーフ・帰化選手に与える影響

 過去に韓国で報じられた、A代表強化に向けた外国人選手の帰化に関する記事を読むと、よく目にするキーワードがあった。

 「慎重な世論」「単一民族」「純血主義」などである。

 単一民族国家の意識や純血主義的な価値観が強いとされる韓国では、外国人の帰化や国際結婚に対して消極的な側面があるという。

 そのため、「国家の象徴」である代表チームに外国人が加わる動きがあると、世論は慎重な判断を求める傾向にある。歴史と伝統を誇るサッカー代表に対する国民の関心は高く、賛否が分かれやすいことも。帰化の進展に影響しているようだ。

 ハーフの選手が少ないという印象や、帰化選手に前例がない背景には、こうした社会的事情があると考えられる。

兵役問題による不公平感も

 さらに、この「慎重な世論」には兵役問題も関わっているとされる。

 韓国では「兵役法」に基づき、20歳から28歳(一定の条件を満たせば30歳まで延長可)の健康な男性に対し、約2年間(最短18カ月)の兵役義務が課せられる。

 芸能人であっても例外ではなく、世界的に人気のあるK-POPグループ「BTS」のメンバーでさえ、全員が兵役義務を終えている。

 しかし一方で、国籍法に基づき帰化申請を行い韓国国籍を取得した場合、一定の手続きを経ることで兵役義務が免除されるケースがあるという。

 サッカー選手にとって、20代の貴重な時期に課される約2年間の兵役は大きな負担だ。

 それにもかかわらず、一時的なA代表強化のために帰化した外国人選手が兵役を免除され、いわば“飛び入り”でW杯に出場するようなことがあればどうか。兵役を全うしながら代表入りを目指す他の選手が不公平感を抱いても不思議ではない。

「外国生まれ」ではなく、「韓国生まれ」なら前例あり
 
 「外国生まれ」ではなく、「韓国生まれ」のハーフというくくりで見た場合、初のA代表デビューはカストロップではない。
 
 イギリス人の父と韓国人の母を持ち、仁川(インチョン)で生まれたDFチャン・デイル(張大一)である。
 
チャン・デイル(右)とケイシー・フェア
 チャンは幼少期をイギリスで過ごした経験があり、1997年に韓国代表デビューを果たした。翌1998年のフランスW杯の韓国代表メンバーにも選出されたが、本大会でピッチに立つことはなかった。
 
 一方で、女子に目を向けると初の韓国代表ハーフ選手の誕生は比較的最近。アメリカ人の父と韓国人の母を持つFWケイシー・フェアである。
 
 ケイシーは生後まもなくアメリカへ移住したという。オーストラリアとニュージーランドが共催した2023年女子W杯に韓国代表として16歳で出場し、話題となった。「16歳と26日」での出場は、男女を通じたW杯史上最年少記録とされている。年齢が若いケイシーは、現在も二重国籍を有している。

韓国社会に「多様性の波」 サッカーなどスポーツに変化

 純血主義的な価値観が根強く残る韓国だが、近年は国際社会のグローバル化や国内人口の減少などを背景に、帰化や移民に対して寛容な社会へと変わりつつあるという。

 実際、バレーボールや卓球、バスケットボールなどでは、すでに帰化選手が韓国代表として活躍した事例がみられる。

 そして、その変化はサッカーにも及び始めている。

 カストロップのA代表デビューに先立ち、ロシアの帰化選手であるチャリフ・アルカディが、2024年にU-14韓国代表に選出され、話題となった。世代別の代表とはいえ、「初の帰化選手」である。

 ロシア人の両親を持つアルカディは191センチの長身FW。韓国で育ち、流暢な韓国語を話す。2023年に韓国へ帰化し、現在は仁川(インチョン)ユナイテッドFCの下部組織でプレーする。2026年3月には大韓サッカー協会(KFA)などが支援する奨学生に選ばれ、「韓国代表に入れるよう努力したい」と語った。

韓国サッカー停滞と急がれる「改革」 もうひとつの背景

 外国にルーツを持つ有能な選手を積極的に取り込もうとする韓国サッカーの動きは、単に「多様性の波」を受け入れようとしているだけなのだろうか。

 ここ数年の韓国サッカーに漂う強い停滞感が、そうさせているようにも感じられる。

 1986年から続くW杯連続出場記録は維持しているものの、かつてアジアサッカーをけん引してきたころのような「勢い」が感じられないからだ。

 実際、2023年のアジアカップでは格下とみられていたマレーシアと引き分け、国内メディアは嘆いた。さらに翌2024年には、U-23代表がパリ・オリンピック出場を逃し、9大会連続だった本大会出場が途絶えた。国民の落胆は小さくなかった。

 加えて、2024年7月に就任したホン・ミョンボ(洪明甫)代表監督の不透明な選考過程が疑惑を招き、国会で追及される事態にも発展した。これに対しては、FIFA(国際サッカー連盟)が「政治介入」を警告するまでに至っている。

 不安をあおるニュースが続く中で、ライバルである日本サッカーは着実に発展を遂げている。その現実は直視しがたいだろう。焦燥感さえうかがわせる。

 代表チームの低迷は、サッカー人気の低下に直結する。

 世論の賛否が分かれるとしても、新しい価値観を取り入れ、改革を図りたい――。

 カストロップやアルカディの動きは、そんな韓国サッカーの強い思いの表れのようにも感じられた。〈敬称略〉

(了)

by 北 コウタ
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