カルチャー

ベトナムのサッカー漫画『Son,GOAL!』は『キャプテン翼』的な効果を期待?

ベトナム初のオリジナルサッカー漫画『son goal!』
ベトナム初のオリジナルサッカー漫画『Son GOAL!』(source: vietnamtimes.org.vn)

日本の漫画家がKADOKAWA経由でベトナムサッカーを描いた

 『Son,GOAL!(ソンゴール!)』というベトナムのオリジナルサッカー漫画が、7月に発行された。日本の株式会社KADOKAWAとベトナムのキム・ドン出版社による共同出版だという。

 2023年の両国の国交樹立50周年を記念して制作。『週刊少年チャンピオン』などの少年誌でサッカー漫画など多数の連載経験がある日本の漫画家、馬場民夫氏が手掛けた。ベトナムサッカー連盟(VFF)も橋渡しに一役を買ったようだ。来年には日本でも発売予定だという。

 どんな内容かというと、ブラジル人の父親とベトナム人の母親の間に生まれた主人公ソンのサッカー物語。ソンは南米で育ったが、父親の仕事の都合でベトナムのダナンに引っ越すことに。そこで地元の弱小サッカーチームと出会い、ソンは仲間に加わる。

 サッカー小僧が転校して来て、弱小チームに加わるという内容にピンときた人もいるのではないだろうか。そう、あの『キャプテン翼』(原作・高橋陽一)の最初に似ている。

私の少年時代は『キャプテン翼』 岬くんになりたかった

 私が子供のころ、サッカー漫画といばキャプテン翼だった。小学校の低学年時にアニメを見て知り、すぐに夢中になった。学校の課内クラブで漫画クラブに所属していた私は、キャプテン翼のイラストをひたすら模写した思い出がある。

 しかし、近所にはサッカー少年団がなかったので、その後、小学4年時に転校した茨城県でサッカーを始めるまでは遊びの中でしかサッカーをしていない。

『キャプテン翼』12巻の背表紙を飾る岬くんになりたかった

 その低学年のころ、キャプテン翼の単行本はすでに10巻以上出ており、私はお小遣いで12巻だけ一冊買った。なぜ12巻かというと、背表紙がお気に入りの岬くん(岬太郎)だったからだ。漫画の単行本を買ったのは、人生で初めてのこと。あのころ、私は岬くんになりたかった…。

 われわれの世代がキャプテン翼について懐かしく語り合うと、必ずといっていいほど登場人物の中で誰が好きだったかという話題になる。

 自己主張の強い人は日向小次郎を好みがちだった。「フィールドの貴公子」と呼ばれた三杉淳が好きで14番を付けたがる人もよくいた。

 私が好きだった岬くんもなかなか人気の高い登場人物の一人。『ボクは岬太郎』というスピンオフの単行本が発行されたほどだ。

 岬くんは放浪画家の父親に連れ添って転校を繰り返し、翼くんと同じ時期に南葛小にたどり着いた。派手な得意技はないが、しなやかなボールさばきで相手を翻弄し、翼くんを支える相棒役として南葛FCを引っ張った。誰に対しても優しい心で接し、控えめだが、内に秘めた闘志は翼くんと変わらない。

 岬くんが好きな人は、きっとリーダー的なタイプではない。おそらく、りーダーを支えるサブ的な立場で力を発揮する人ではないか、と個人的に思う。

サッカー発展途上国のベトナム 『Son,GOAL!』発売の期待

 話がだいぶ逸れてしまったが、かつて『週刊少年ジャンプ』に連載されていたキャプテン翼は、日本のサッカー普及に大きく貢献した(連載開始は1981年)。

 週刊少年ジャンプの三大原則である「友情、努力、勝利」に沿った内容で人気を集め、サッカーを始める子どもが急増。翼くんのドライブシュートや、日向くんのタイガーショットを真似するサッカー小僧が続出した。

 現在のJリーグや日本代表の中にも、キャプテン翼に影響を受けた選手がたくさんいる。さらに、その影響は世界中に広がった。元フランス代表のジネディーヌ・ジダン氏が子どものころに愛読し、サッカーを始めたという話は有名だ。

 そう考えると、サッカーにおいて発展途上国であり、現在急成長中のベトナムで、キャプテン翼のような大衆的的なサッカー漫画が初めて発行された理由もなんだか分かる。サッカー人気爆発の起爆剤にしたいと考えるベトナムサッカー連盟の期待もありそうだ。

あふれる日本のサッカー漫画 サッカーの進歩ともに多様化

 いま、日本ではサッカー漫画があふれている。NHKがアニメ化し現在放送中の『アオアシ』をはじめ、様々な視点、観点を切り口にした作品が多数発行され、子どもから大人まで幅広い読者層を楽しませている。

 小中学生のころは『週間少年ジャンプ』にどっぷりハマっていた私だが、大人になってからは漫画をほとんど読まなくなった。だから、アオアシの名前は聞いていたものの、読んだことがなく、アニメ化されたものをようやく何度か見た。

 アオアシを見て驚いたのは、その内容だ。サッカーの素人に向けた感じではなく、玄人向けというか、サッカーがうまくなりたい人に向けた内容だ。プロになるために必要な思考や努力、プレー技術が描写され、見ると勉強になる。「いまの子どもはこんな“高度なサッカー漫画”を読んでいるのか」と思った。

 漫画大国と言われる日本だが、サッカー漫画は時代とともに変化し、内容も多種多様になっていると感じた。時代というか、日本サッカーの進歩とともによりプレーヤー目線の内容が増えている。

 ベトナムのサッカー成長が今後も続き、ワールドカップの常連国になったとしたら、サッカー漫画の内容も変わるだろうか。

 と考えてみたが、私はまだ『Son,GOAL!』の内容を詳しく知っているわけではなく、実際に話の展開がキャプテン翼と似ているのかも未確認。なので、日本で発売されてからあらためて確かめたい。

(了)

by 北 コウタ
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