訪れてみたい! “サッカー侍”が戦った街 ― ルマン(フランス)

日本サッカーの成長とともに、いまや日本人選手の海外移籍は後をたたない。それはヨーロッパのみならず、世界各国に及んでいる。そんな“サッカー侍”たちが、かつて戦った街がある。いま戦っている街がある。それだけで、「いつか訪れてみたい…」。そう思わせる魅力がある。 |
“稀代のドリブラー”松井大輔が初の海外挑戦に選んだ街
フランス西部ペイ・ド・ラ・ロワール地方にある古都ルマン。元日本代表MFの松井大輔が初の海外挑戦の舞台に選んだ街だ。

松井といえば、「ファンタジスタ」「稀代のドリブラー」と呼ばれた技巧派。高校卒業後の2000年に京都パープルサンガに入団。2002年にクラブ初タイトルとなる天皇杯優勝に貢献した。
2004年夏、10番を背負ってアテネオリンピックに出場。大会終了後の同年9月、J2リーグの京都から当時フランス国内2部のルマン・ユニオン・クラブ72(現ルマンFC)へ期限付きで移籍した。
「同じ2部ならフランスの方がいいに決まっている」。迷わず飛び込んだ。
ルマン加入後、松井はトリッキーなプレーで地元サポーターを魅了。チームは快進撃をみせ、リーグアン(1部)自動昇格圏の2位でシーズンを終えた。 サポーターは「日出ずる国」から来た“侍”を「le soleil du Mans (ルマンの太陽) 」と称えた。
最初のシーズンを終え、松井はルマンに完全移籍。2008年5月にASサンテティエンヌへ移籍するまでの約4シーズンをこの街で過ごした。リーグ戦通算119試合出場、15得点。フランスリーグで日本人の価値を証明した最初の選手だった。
古代ローマ時代の遺跡が残るサルト県の県庁所在地

首都パリから南西約200キロに位置するルマンは、サルト県の県庁所在地だ。人口は約14.5万人(2022年)。高速列車(TGV)に乗ればパリから約1時間で着く。
その起源は紀元前1世紀ごろ、ガリア人(ケルト系民族)が住むこの地に古代ローマ人が入植したのが始まりとされる。街には古代ローマ時代の遺跡がいまも残る。
フランス革命(1789年~1795年)以前はメーヌ州の州都として栄え、織物業が盛んだった。
産業革命後は鉄道や自動車、航空機、タバコなどの製造業が発達した。1920年に設立された自動車大手ルノーの工場は現在も稼働し、街の経済を支えている。

第二次世界大戦中はナチス・ドイツに占領下に置かれ、ノルマンディー上陸作戦の勝利後、1944年8月にアメリカ軍によって解放された。
■街のシンボルはサン・ジュリアン大聖堂
街のシンボルは旧市街北東にそびえ立つ「サン・ジュリアン・デュ・マン大聖堂」。11世紀から15世紀にかけて造られたカトリックの教会だ。フランスの文化遺産に指定されている。

4世紀初め、この地域にキリスト教を確立させたのがルマン初代司教の聖ジュリアン。大聖堂は彼に捧げ、建てられた。
高さは約134メートル。圧倒的な存在感でルマン市民を見守る。聖堂内には、1120年に造られたとされるフランス最古級のステンドグラスが飾られている。
日曜日には大聖堂の下でマルシェ(市場)が開かれ、地元の人々でにぎわう。
「ルマン」の名を世界的に有名にしたのは、100年以上の伝統を誇る「ルマン24時間レース(24 Heures du Mans)」だ。モータースポーツの聖地として、毎年多くの観光客がこの街を訪れる。

古くから自動車や航空機の製造が盛んだったルマンでは、19世紀後半にはすでに自動車レースが行われていた。
こうした中、1906年に発足したのが「フランス西部自動車クラブ(ACO)」だ。自動車製造業者やレース愛好家によって結成された組織で、1923年に24時間レース第1回大会を開催した。
以来、ACOは現在までレースを主催し続けている。
各国の自動車メーカーがプライドをかけて争うレースは、「サルト・サーキット」と呼ばれる一般の公道を含む全長13km超の周回コースで行われる。そのため、村の名前がコーナーの名称に使われるという。

また、多くのルマン市民がボランティアとして運営に参加するのもの特徴の一つ。毎年6月の開催日が近づくと街全体がお祭り騒ぎとなり、市を挙げてレースを盛り上げる。
サルト・サーキットには24時間レースの歴史をじっくり学べる博物館が併設されている。歴代の優勝車両などが展示されており、車好きにはたまらない必見のスポットだ。
ルマンでは毎年、24時間レースのほかオートバイやトラックなど様々なモーターレースが開催される。日本のモータスポーツの聖地といえば三重県鈴鹿市だが、両市は1990年から友好都市関係を結ぶ間柄だ。
パンに塗る名物「リエット」 ルマン産は評判で名店揃う
フランスには、バゲット(フランスパン)に塗って食べる「リエット(Rillettes)」と呼ばれる名物がある。その歴史は15世紀に始まったとされる。

リエットは、豚肉を脂身とともに弱火でやわらかくなるまで長時間煮込み、塩とコショウで味付けしたもの。
ルマン産のリエットは「リエット デュ マン(Rillettes du Mans)」と呼ばれ、国内でも評判の美味しさ。名店が揃うという。訪れたらぜひ食べたい。
瓶詰めやカップ入りの商品も多く販売されており、土産として喜ばれそうだ。