日本サッカー

天皇杯「ジャイアントキリング」の裏で「ドーハ世代」の長谷川、堀池が旧友対決!

2021年の天皇杯サッカー2回戦、FC東京対順天堂大学の試合

 また、ジャイアント・キリングを目の当たりにした。

 6月9日に東京・味の素フィールド西が丘で開催された天皇杯サッカー全日本選手権大会の2回戦。FC東京が延長線の末に順天堂大学に1―2の逆転負けを喫した。
 
 「弱者が強者を倒す」ことを意味するジャイアントキリングは、いまや天皇杯の醍醐味のひとつ。「また」と言ったのは、2019年8月にも、天皇杯3回戦でガンバ大阪が法政大学に負ける試合を見たからだ。それも西が丘だった。Jリーグ勢には鬼門なのか…。

 この対戦、一部のサポーターの間では試合前から注目されていた。順天堂大学の監督が元日本代表の堀池巧氏だからだ。

静岡県・清水で幼なじみの2人。試合前にベンチで語り合う

 堀池氏とFC東京監督の長谷川健太氏は、同じ静岡市清水の出身。ともに55歳で小中高と同じチームでサッカーに打ち込んだ間柄だ。高校時代は同じく元日本代表の大榎克己氏を含めて「清水東三羽がらす」と呼ばれ、全国優勝を成し遂げた。大学は違うが、Jリーグでも清水エスパルスでチームメイトに。1993年のW杯アジア最終予選では、あの「ドーハの悲劇」も一緒に経験している。これほどまで同じ時を過ごしたサッカー選手もなかなか珍しい。

 2人の現役時代を知らない今の若い世代は関心がないだろう。しかし、われわれアラフォー世代のサッカーバカは、この旧友対決に沸かずにはいられないのだ!

 カズ(三浦知良)やラモス、中山雅史ら「ドーハ世代」の多くが見せたプレーの「熱さ」や「気概」みたいなものが好きだった。というか、それを見て育った。技術よりもまず「気持ち」で戦う。Jリーグ発足当初の試合映像を見れば、その熱量は一目瞭然だ。現代の日本サッカーはテクニカルでスピーディーだが、あのころの荒っぽさ、気持ちでぶつかる姿勢がもう少しあってもいい。

 開場と同時にFC東京ベンチの裏手のメインスタンドに席を取った。

 すると、試合開始の1時間半ほど前。まだピッチには誰もいない時間帯のことだ。マスクを付けた堀池氏がゆっくりとFC東京ベンチに向かって歩いてきた。

 囲い付きのベンチは、後ろ側からは誰が座っているのかが分からない。どうやらすでに長谷川氏が座っていたようだ。FC東京のベンチに近づいたところで、堀池氏の目元が優しくゆるんだ。そしてそのまま、ベンチの中へと入っていった。「おぉっ!」と、うなったのは私だけだろう…。

 久しぶりの再会。2人はどんな言葉をかわしたのだろうか。堀池氏は15分以上はベンチから出てこなかった。「今日は胸を借りるよ」だろうか。それとも「今日は勝たせてもらうよ」なのか。敵陣ベンチに出向いたのは堀池氏。やはりここは「胸を借りるよ」ではないか。あれこれと妄想しながら、会話の内容が気になった。家族ぐるみの付き合いが続くという幼なじみの2人。きっと心地よい時間が過ぎたに違いない。

堀池氏「いちばん楽しみにしていたのは自分自身だろう」

 さすがにFC東京は負けないだろう、と予想していた。

 順天堂大学は4日前に天皇杯1回戦を戦ったばかりのコンディション。FC東京も同日にルヴァンカップ・プレーオフ第1戦を戦っていたが、選手層を含めて力の差は大きいと考えていた。

 しかし、試合が始まると大学生の上手さに驚いた。

by 北 コウタ
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