日本サッカー

初めて「個」が決めたW杯出場。感じた日本代表の変化と期待

三笘のゴールに喜ぶ日本代表選手
得点した三笘を囲んで喜ぶ日本代表選手たち(source: AFC Asian Cup on twitter)

 サッカー男子の日本代表が、1998年の初出場から7大会連続となるワールドカップ(W杯)出場を決めた。

 「簡単な試合は一つもない」ことは分かっているW杯最終予選だが、序盤の3試合で1勝2敗はさすがに焦った。今回ばかりは「まさか…」が現実になるのではと嫌な予感もあった。

 サッカーの強豪国でも、「まさか…」が普通におとずれるのがW杯予選の難しさ。2018年ロシア大会に続き、2大会連続でW杯出場を逃したEURO2020王者のイタリアが話題となったばかりだ。イタリア国民の喪失感を思うと本当にいたたまれない。次の2026年大会に出場したとしても、12年間W杯と無縁の日々を過ごすのだから。

 思えば、私がW杯予選の厳しさを知ったのは高校時代のこと。W杯を見始めたのが1990年イタリア大会の本戦からなので、予選から意識してW杯を見たのは続く1994年アメリカ大会からだった。

 アメリカ大会の予選といえば日本の「ドーハの悲劇」だが、それ以外に私の印象に残ったのがイングランドだ。

 当時、イングランドのW杯出場を信じて疑わなかった私は、高校の修学旅行で訪れた京都のサッカーショップでイングランド代表の白いユニフォームを買った。しかし、最終的にイングランドは予選を突破できず、「まさか…」の敗退。「せっかくユニフォームを買ったのに…」となった。

 ちなみにその年は、フランスも最終節のブルガリア戦で終了間際に同点に追いつかれ出場を逃し、大々的なニュースとなった。日本、イングランド、フランスの悲劇を通じて、「W杯予選は最後まで何が起こるか分からない」ことがよく分かった。

 だから今回、日本代表にドーハ以来の「まさか…」がおとずれなかったことに、とにかくホッとした。多少の覚悟はあったものの、やっぱり日本が出場しないW杯なんて楽しめない。4年に1度のW杯を選手とともに戦うことが、われわれ「サッカーバカ」の生きがいなのだから。ですよね?

過去の決勝弾とは違った 「個」でねじ伏せた三苫のゴール

 W杯出場が決まり、ホッとしたところで感じたことがあった。

 それは、初めて「個」の力が決めたW杯出場だということ。言うまでもなく、「個」とは三笘薫の「個」である。

 カタール行きを決めたオーストラリア戦を放送した「DAZN」は、試合前、予選免除の2002年日韓大会を除く、過去のW杯出場を決めた試合の決勝弾をまとめた映像を流した。

 1998年フランス大会を決めた岡野雅行のゴール。2006年ドイツ大会を決めた柳沢敦、大黒将志のゴール。2010年南アフリカ大会は岡崎慎司。2014年ブラジル大会は本田圭佑の同点PK。そして、2018年ロシア大会は浅野拓磨と井手口陽介が決めた。

 それを見たからだろう。決勝弾だけを見比べると、オーストラリア戦での三笘の2点目は、過去の決勝弾とは明らかに違う。

 連携した崩しではなく、たった一人で3人をかわし、オーストラリアの守備陣を「個」でねじ伏せた。アシストはつかない、三苫個人の力で奪ったゴールだ。

 「W杯ベスト16の壁」をこえるため、長らく日本サッカーは「個」の力の重要性をうたい続けてきた。そんな中、W杯出場がかかった大一番の試合で、ついに“ゴリゴリの「個」”による得点が生まれ、勝利をもたらした。そんな得点が日本サッカーの歴史的ワンシーンの一つになったことに、日本代表の変化を感じた。

 2018年ロシア大会出場を決めた井手口のミドルシュートも「個」だ、と言う人もいるだろう。だが、相手守備陣が引いた状況でゴールをこじ開けた三苫のそれは少し違うと個人的には思う。

 試合後、三笘は「ひとり崩せば侵入できるスペースがあった。いくしかないと思って判断した」と振り返った。やはり「個」の判断、技術、そして強い意志が結集したゴールだったといえる。

 結果のともなった三苫の「個」のアピールは、11月の本大会に向けたメンバー選考基準にも影響しそうだ。そこから起こる日本代表の底上げにも大いに期待したい。〈敬称略〉

(了)

by 北 コウタ
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