道産子の「誇り」山瀬功治が引退 セレモニーで明かした“レジェンドの境地”

元日本代表のMF山瀬功治が現役のピッチを去った。
高校卒業後の2000年にコンサドーレ札幌でプロ生活をスタート。8つのクラブを渡り歩き、選手生活は25年におよんだ。この間、膝の大怪我を2度克服。それでも得点を重ね、Jリーグ24年連続得点を達成した。
日本サッカー史に名を刻んだ山瀬は、道産子の「誇り」であり「最高傑作」だ。
2024年11月にレノファ山口を契約満了後、移籍リスト入りの時間が長く続いた。新天地が見つかることを願ったが、かなわなかった。今年2月27日に現役引退を発表した。
「5歳から始めたサッカーはもう細胞の一部」。そう話すほどサッカーにすべてを捧げてきた男だ。43歳。若くはないが、大きな決断だっただろう。
所属した各クラブのサポーターからは、「ありがとう」「お疲れ様」などの声が多く寄せられた。
「他人に振り回されるのはもったいない」 自分にベクトルを向け続けた
プレーは目立った山瀬だが、私生活は物静かで控えめな印象があった。そんな山瀬が引退セレモニーの場で自らのサッカー人生哲学を長々と語った。少し意外だった。
山瀬が伝えたのは「困難に直面したとき」の向き合い方。それでも前進できた理由だった。後輩たちへの助言か。それとも25年のプロ生活を全うした自らへの労いか。どちらともとれた。
「人は辛いことがあったとき、感情を外へ向け、他人や環境のせいにしてしまう。自分も、ネガティブな感情を外へ向けたことが一切ないとは言えない。ただ、その中でもできるだけ自分にベクトルを向け、状況を打破するために何ができるのかに目を向けて前進してきた。だからこそ、25年間選手生活を続けてこられた」
山瀬は過去に左右の膝前十字靭帯断裂という大怪我を経験しいている。
日本代表で10番を背負ったこともあったが、ワールドカップ出場はない。オリンピック代表落選の挫折もあった。
辛く、悔しいことのほうが多い選手生活だったのかもしれない。8クラブでプレーしたからこそ、「契約満了」を何度も受け入れてきた。
苦境に立たされても前へ進めた理由。山瀬はこう語った。
「他人の思考、行動は自分ではどうすることもできない。限られた選手生活。自分にコントロールできないものに振り回されるのはすごくもったいない。どうせなら、自分にコントロールできるものにフォーカスして、そのためにエネルギーを使い前進するほうがより建設的だ。それをこの25年で学んだ」
他人の目がないときでも、やりきれるか 「後悔」について語った
座右の銘は「限界をつくらない」。それにも言及した。
「人は限界の線引をした時点でそれ以上を目指さず、向上心も無くなり、現状維持に努めるようになる。しかし、世の中はつねに進歩し続けている。周りが前進しているのにその場に留まれば、遅れていくだけ。自分に限界をつくらず、つねに前進する意思をもってサッカーに取り組んできた」
料理研究家として知られる妻・理恵子夫人とは、「明日、人生が終わったとしても後悔のない生き方をしよう」とつねに話しながらサッカーに取り組んできたという。

哲学的に語りだしたのは「後悔」についてだった。
後悔には2つある、と。一つは、良くない結果が出たときに自らの選択を悔いる結果にフォーカスした後悔。もう一つは、「もっとやっておけばよかった」「やりきることができなかった」という感情が芽生える後悔。
山瀬が意識したのは後者だという。
人は、他人の目があると一生懸命に取り組む。他人の目がないと甘えが出てしまう。他人の目がないとき、どう行動できたか。自分だけがすべてを見ている。うまくいかなかったときに後悔したのなら、それはすべてを知る自分の本音だ。心の本音が「後悔」という感情をつくり出している、と。
そう語り、こう締めくくった。
「いま、後悔なくやりきったと感じられている。そう思える自分を少しだけ褒めたい」
中村憲剛、イチロー レジェンドたちは皆、同じことを言っている
山瀬の引退メッセージを聞いて思った。
レジェンドたちは皆、同じことを言っていると。
「他人や環境のせいにせず、つねにベクトルを自分に向ける」。どこかで聞いた内容だった。そうだ、確か中村憲剛が前に言っていた。
「限界をつくらない」。これを聞いて真っ先に浮かんだのはイチローだ。
昨年末に見たイチロー密着の『情熱大陸』を思い出した。引退後も毎日トレーニングに励むイチローはつねに「限界点を探す」癖があるという。限界点の手前で留まりたくないからだろう。「やらない(で悔いる)後悔が嫌いなんだ」と話した。
レジェンドたちは皆、一切の妥協も許さない。ストイックで自分がやるべきことを淡々と行う。つねにベクトルを自分に向けて。
だから、選手生活を長く続けられる。
第一線から退いた山瀬だが、「生涯、サッカーに携わっていく」という。北海道のサッカー発展にも関わってくれるのだろうか。どこまでも応援したい。<敬称略>
(了)
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