規模拡大の「FIFAクラブワールドカップ」 ― 新大会方式を整理

サッカークラブの世界一を決める「FIFAクラブワールドカップ」が大規模に拡大され、2025年6月15日にアメリカで開幕した。FIFA(国際サッカー連盟)は「クラブサッカーの黄金時代」と銘打ち、破格の賞金と黄金のトロフィーを用意。6大陸王者を含む32クラブが参加し、1カ月におよぶ熱戦が繰り広げられる。32クラブはどう選出されたのか。賞金額の詳細は。改編された大会の新方式やFIFAのねらいをまとめた。 |
FIFAが定めた大陸別の出場枠をもとに32クラブを選出
これまで、FIFAクラブワールドカップ(以下、クラブW杯)は各大陸王者の6クラブと開催国の1クラブの7クラブが「世界一」を争った。
今回から、6大陸のサッカー連盟と開催国から「32クラブ」が参加する大規模な大会に変わった。試合数が増え、開幕から決勝まで1カ月を要する長丁場だ。
では、32クラブはどう決められるのか。FIFAが定めた以下の大陸別出場枠数をもとに選出された。

■大陸王者を中心に「4年ごと」の成績で選ぶ
上記の大陸別出場枠をもとに、2025年大会は「2021年から2024年まで」の4年の期間内で、各大陸サッカー連盟の主要なプレミアム大会で優勝したクラブが選出される。
例えば、アジアなら昨年から名称が変わったAFCチャンピオンズリーグ・エリート(旧AFCチャンピオンズリーグ)の優勝クラブが対象だ(*)。

出場枠数が多い欧州と南米の場合、残りの出場クラブは各連盟の競技成績に基づいて算出されたクラブランキングによって選ばれる。
また、1枠しかないオセアニアは、当該期間の主要大会王者の中で最もクラブランキングが高いクラブが選出される。
そのほか、大陸を問わず以下の共通ルールがある。
・当該の4年間に各大陸の主要大会で複数回優勝したクラブがある場合、クラブランキングに基づいて他の出場クラブを決める。 ・当該の4年間に同一の国から複数のクラブが各大陸の主要大会で優勝した場合を除き、同一の国からの出場できるのは2クラブまでとする。 ・同一の所有者が複数のクラブを所有する場合、それらのクラブが大会に同時に出場するはできない。 |
クラブW杯は今後4年に一度開催される。この先も4年ごとの主要大会での成績をもとに出場権が与えられる。
いずれにせよ、大会に集結するのは各大陸の強豪クラブだ。
4つのクラブでグループ予選を戦う 上位2クラブが16強へ
試合の形式はいたってシンプルだ。
4つのクラブごとにAからHまでの8つのグループに分かれ、予選を戦う。このとき、12クラブが出場する欧州を除いて、同じ連盟のクラブまたは同じ国のクラブが同一のグループに入ることはない。
各グループの上位2クラブが予選通過となり、ベスト16(決勝トーナメント)へ進出する。
決勝トーナメントは、前後半で勝敗がつかない場合、延長戦、PK戦を行う。
ベスト4(準決勝)で敗れたクラブ同士による3位決定戦は行わない。
3位決定戦がないことを除けば、従来のFIFAワールドカップ(32カ国参加型)とほぼ同じ形式といっていいだろう。
柔軟な「選手登録」規定 開幕直前と予選後に追加・変更が可能
選手の登録規定はわりと柔軟に考えられている。
登録人数は26人以上、最大50人まで。うち最低3人はゴールキーパでなければならない。
大会は、サッカー選手の移籍市場が活発な時期に開催される。そのため、開幕直前の2025年6月1日から6月10日までに「例外的な追加登録期間」が設けられた。これにより、大会直前の戦力補強による新加入選手の再登録が可能だ。
さらにグループ予選終了後から、ベスト8直前にあたる2025年6月27日から7月3日を「登録選手の変更期間」とした。例えば、6月末でクラブとの契約が満了になる選手や負傷した選手などがいる場合、登録を変更できる(人数に制限あり)。
ただし、同一の選手が大会期間中に2つの異なるクラブで試合に出場することはできない。
賞金総額は破格の10億ドル 前回大会から60倍超の増額
FIFAの力の入れようは、破格の賞金にも表れている。
賞金総額は破格の10億ドル(約1400億円)。
前回2023年大会の総額1600万ドルから60倍超の増額だ。10億ドルは、「勝利報酬」分の4億7500万ドルと「参加報酬」分の5億2500万ドルに分けられる。
大会が行われる期間は本来、国内シーズンに向けた調整などに充てられる大切な時間だ。クラブの大会への参加意欲を促すため、高額な報酬が用意されたのもうなずける。
■参加報酬
各クラブは大会に参加するだけで一定の報酬を得る。
ただ、クラブごとの参加報酬額は大陸間で差がある。さらに欧州内ではクラブ間でも格差が生じる。FIFAはこれについて、「スポーツと商業の基準に基づくランキングによって決める」と説明している。詳細は以下のとおり。

■勝利報酬
各クラブは、グループ予選で勝利すると200万ドル、引き分けなら100万ドルを得る。
決勝トーナメント以降は、勝ち上がるごとに賞金が上乗せされる。予選の3試合すべてに勝利して優勝した場合、総額で1億1762万5000ドル(約169億5000万円)を獲得する。
以下は、前回大会と今大会の勝利報酬の詳細をまとめたもの。比較するとその差は歴然だ。

「黄金色」に輝くティファニー製の新トロフィーを用意
優勝クラブに贈られるトロフィーは、従来の大会のものが引き継がれず、新たにつくられた。

「クラブサッカーの黄金時代」と銘打つ大会だけに、黄金色に輝くトロフィーを用意。FIFAがデザインを手掛け、アメリカの宝飾品大手ティファニー(Tiffany)が製作した。ティファニーは大会のオフィシャルサプライヤーとして名を連ねる。
FIFAは、トロフィーの大々的なPR活動を展開。大会前に「トロフィーツアー」を企画し、世界各国の出場クラブを巡らせた。
今年3月には、大会に日本から唯一出場する浦和レッドダイヤモンズの本拠地、埼玉スタジアム2002に登場。日本のサッカーファンにお披露目された。
世界のファンを取り込めるか 大会成功のカギは選手の「熱量」
クラブW杯「拡大」のねらいは、4年に一度行われる国別のワールドカップ(W杯)とは別に、世界のサッカーファンを取り込んで盛り上がる大会の創設にある。
大会は今後、W杯の前年に開催される。この位置には、かつてW杯プレ大会として「FIFAコンフェデレーションズカップ」が開催されていた。
コンフェデレーションズカップは一部のナショナルチームしか参加できなかっため、世界のサッカーファンを取り込むことは難しかった。盛り上がりに欠け、支持も得られなかったとされる。そのため、FIFAはこれに代わる大会として、クラブW杯の拡大構想を打ち立てた。

世界中から32クラブが集結するクラブW杯は期待が大きい。
ただ、開催は4年に一度。クラブによっては大陸王者を勝ち取った当時の「熱量」や「好調さ」で臨めるわけではない。また、当時のメンバーで出場することも考えにくい。
さらには、大陸王者を経験したクラブとは別のクラブのメンバーとして大会に出場する選手が出てくる可能性もあるだろう。
そう考えると、気になるのは各クラブの大会に向けた意気込みだ。世界のサッカーファンを取り込み、盛り上げ、価値ある大会にできるか。成功のカギは、クラブと選手たちの大会に臨む「熱量」にかかっている。
(了)
*… アジアサッカー連盟の4枠は、AFCチャンピオンズリーグが2023ー24年大会から開催時期を変更したため、該当の4年間内の3大会が対象になった。そのため、残りの1枠はクラブランキングに基づき、蔚山HD(韓国)が選出された。
※… 記事中の大会賞金・報酬額は2025年6月15日の為替レート(1ドル=約144円)で換算。
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