W杯予選でドイツ代表などが抗議行動。開催国カタールの人権問題とは?
2021年3月下旬に始まったFIFAワールドカップ2022カタール大会のヨーロッパ予選において、ドイツ、ノルウェーなどの選手が、開催国カタールに向けた抗議アピールを行ったことが話題となった。では何に抗議したのか? それはカタールに居留する外国人出稼ぎ労働者が受けている差別的な待遇などについてだ。選手たちは試合前、抗議メッセージの書かれたシャツを着てピッチに現れた。
「約10年で外国人労働者6500人が死亡」。英紙が報じる
発端となったのは今年2月の英紙ガーディアンによる報道である。カタールがワールドカップ2022の開催国に選ばれた2010年12月以降、同国で働いた外国人労働者のうち、6500人以上がすでに死亡していると報じた。また、ワールドカップの競技施設の建設に直接関係する労働者の37人が死亡しているという。
以前から、カタールでは外国人労働者の人権侵害が横行しているとメディアで報じられていた。国際労働組合総連合(ITUC)は、外国人労働者の劣悪な労働条件や労働環境を改善するようワールドカップのスポンサー企業に協力を呼びかけていたという。
「HUMAN RIGHTS(人権)」などと書かれたシャツ着てピッチに
3月25日にアイスランドと対戦したドイツ代表は、試合前に選手たちが白文字で「HUMAN RIGHTS(人権)」と書かれた黒いシャツを着てピッチに登場した。
一方、ノルウェー代表の選手は同25日のジブラルタル戦、同27日のトルコ戦のいずれの試合で「HUMAN RIGHTS On and off the pitch(ピッチ内外での人権)」と書かれたシャツを着てピッチに現れた。
さらに、オランダ代表は同27日、デンマーク代表は同28日のそれぞれの予選で、ともに選手が「FOOTBALL SUPPORTS CHANGE(フットボールは変化を支持します)」と書かれたシャツを着て続いた。ノルウェー国内においては、大会ボイコットを支持する声すら上がっているという。
ドイツサッカー連盟は、選手たち自身が抗議メッセージをシャツにペイントする様子を撮影した動画と、フリッツ・ケラー会長のインタビュー記事を公式ウェブサイトに掲載。インタビューの中でケラー会長は、「ドイツサッカー連盟は組織をあげて人権尊重に取り組んでいる。その価値観を守るために、われわれはつねに声を上げ続けなければならない。選手たちの行動に胸が熱くなった。かれらを誇りに思う」と話している。
また、ドイツ代表のヨシュア・キミッヒ(バイエルン・ミュンヘン所属)は、「サッカー選出としての責任を感じた。自分たちの影響力を活かして、この問題にみんなで協力して取り組むという意識を高めたいと思った」とその意義についてコメントしている。
政治的メッセージを禁ずるFIFAは「処分を下さない」と発表
国際サッカー連盟(FIFA)は、試合中に政治的なメッセージを発することを禁じている。過去には、2012年ロンドンオリンピックにおいて、試合後に日本と領有権を争う「竹島(韓国名:独島)」の所有を主張するプラカードを掲げた韓国代表選手に2試合の出場停止と罰金が科されたことがある。
しかし、今回の件に関してFIFAは、「表現の自由や、前向きな変化を促すサッカーの力を信じている。罰則を与える予定はない」と発表。現時点でドイツ代表などに処分は下されていない。
昨今、米国の黒人差別や中国の香港情勢などが国際社会で問題視されるなど、差別や偏見、人権侵害を撤廃する動きは高まっている。「処分なし」のFIFAの判断は国際社会の流れをくんだものなのか? 次節以降の予選試合で追随する他の国が出てくる可能性も考えられる。
(了)