“ウチダメンタル”は「強い、弱い」ではなく、「上下」で考える!
引退後、知る機会が増えたクールな内田篤人の「思考」
元日本代表の右サイドバックで、鹿島アントラーズやドイツのシャルケ04などで活躍したウッチーこと内田篤人氏が、昨年夏に著書『ウチダメンタル 心の幹を太くする術』(幻冬舎刊)を出していた。最近になって、知った。
ウッチー(ここでは親しみを込めてこう呼ばせていただく)といえば、とにかくクール! 何事にも斜に構え、冷めている印象が強い。サッカーではその冷静さが生きて、どんな場面でも物おじしないように見えた。派手なプレーはしないが、着実に仕事をこなすタイプ。淡々と、ひたむきに。膝の大怪我で長く辛いリハビリ生活を強いられたときもそうだった。
多くを語らず、SNSなどで積極的に発信もしない。だから、常にウッチーを追いかけているファン以外はプライベートの情報などは詳しく知らないと感じる。私も、好きなサッカー選手の一人だったが交友関係などは知らなかった。
しかし、現役引退後はメディアでの露出が多くなり、ウッチーが過去に考えていたこと、いま考えていることなどを知る機会も増えた。それだけに、それを知るのがすごく新鮮だし、興味深い。
やはり、ワールドカップやUEFAチャンピオンズリーグのベスト4を経験した人の言うことには説得力があるし、彼自身の感性には独特なものがあるので、聞いていて面白い。日本サッカー協会が、彼の引退後すぐに「ロールモデルコーチ」という新ポストを作り、育成年代の指導を頼んだのもうなずける。
「心電図」で例え、本田圭佑は上段、遠藤保仁は下段で保つ
本書『ウチダメンタル』は、ウッチーが自身のメンタルについて自己分析し、整理して言語化したもの。自己啓発的なメンタル本として発刊されたと思うが、なかなか独特なので、誰もが共感するとはかぎらないだろう。
「まえがき」でウッチーは、「(ウチダメンタルを)『いいモノ』として見てくれるか『悪いモノ』とするかは、みなさんにお任せする」とつづっている。いいなあと思った人は、意識して近づけてみればいい。
ウッチーが強調するポイントは、メンタルは「強いか、弱いか」で考えるのではなく、「上下」の振れ幅で考えること。これは「感情の波(起伏)」を意味していて、「感情が乱高下する選手はプレーの波も激しくなる」という。
例えたのは、テレビドラマなどで見る心電図。上下に波打つのが感情なら、危篤状態のようにピーッとまっすぐに一定の状態で保てる選手ほど、いわゆる「メンタルが強い」のだとウッチーは言う。
それを、日本代表でともに戦った仲間たちで説明した。
自身とは対照的だという「超ポジティブ人間」の本田圭佑や長友佑都は、心電図でいうと、(メンタルが)上段で一定に保たれていると考える。本田ほど強気ではない長谷部誠は中段で、遠藤保仁は下段。それぞれタイプは違うが、感情の振れ幅を一定に保てているので、彼らはいずれも「メンタルが強い」。という、ウッチーなりの見解だ。
こうした考えに基づき、ウッチーは逆に、感情の「振れ幅」が大きい人の特徴もあげていく。振れ幅を小さくしようと努力したことで、「保てない人」の特徴が見えてきたという。ちなみに、振れ幅が小さく、自身のメンタリティに似ている選手としてあげたのは、岡崎慎司だ。
「メンタルはどこにある?」と聞かれると、日本人は胸の心臓のあたりを指すが、ドイツなど外国人は頭を指すという話も興味深かった。
このほかにも、“ウッチーワールド”全開のメンタル論が様々な切り口で語られている。
W杯やドイツの裏話、中田英寿との対談 ― サッカーバカ必見の一冊!
サッカーバカ的にいえば、メンタル本ととらえなくても、単純に楽しめるお勧めの一冊だ。
これまで知らなかったウッチーの内面的な部分や、あのとき、あのシーンでの裏話、心の支えになった事や人など、「初出し」と思われる話がメンタルにからめ大いに語られている。文章も、読者に語りかけるような感じ。こうしたこだわりもウッチーらしい。
そして、サッカーバカなら誰もがうなるのが、中田英寿氏(ヒデ)との特別対談。「えっ! この二人って、対談してたの!?」と、ヨダレが出ること必至だ――。
長くサッカー界にいながら、中田氏とは一度も接点がなかったというウッチー。中学生のころからあこがれの存在だったというヒデの哲学に耳を傾ける。ウッチーだから引き出せたかもしれないヒデの本音は必見だ! 「『ナカタメンタル』を本にしたほうがいい」と、ウッチーは振り返っている。
また、2010年ワールドカップ南アフリカ大会で日本代表監督を務めた岡田武史氏との対談も収録。本大会直前にレギュラーから外されたウッチーが、当時の心境を明かしながら、岡田氏の監督哲学やメンタル論について聞き出す。
で、私が「ウチダメンタル」に共感できたのかどうかというと、共感できた。
以前、サッカー番組で元日本代表の戸田和幸氏が、スポーツ選手には「赤い炎」を燃やすタイプと、「青い炎」を燃やすタイプの2種類がいる、みたいなことを言っていたが(本田、長友は「赤い炎」という見方)、私はどちらかというと「青い炎」タイプ。ウッチーもおそらくそうだろう。
だが、私の感情の振れ幅は大きいし、サッカーのプレーにも波がある…。だから、さっそく「ウチダメンタル」を意識して、サッカーにも日常生活にも生かしたい! そう思った。
(了)
『ウチダメンタル 心の幹を太くする術』
内田篤人(著)
幻冬舎/1,650円(税込)