カルチャー

時代とともに変わりつつある日韓戦の熱量

日韓戦に出場したナ・サンホ
ナ・サンホは2019-2020までの2シーズン、FC東京でプレーした(source: the-afc.com

 今回の日韓戦の韓国招集メンバー中、この時点を含め日本でプレー経験のある選手は8人。うち5人が試合に出場した。

 韓国サッカー界においてJリーグに馴染みのある選手が今後もさらに増えれば、日韓戦の闘争心に何かしら影響するのではないだろうか。韓国紙「イルガン・スポーツ」は、「0-3のスコア以上に驚くべきは、無力だった韓国代表の様子だ。終始、日本に一方的に押された」と報じた。さらに「こんな無気力な日韓戦は見たことがない」と嘆く関係者の声を紹介したという。

 サッカーの試合では、激しい接触プレー後に選手同士で声をかけ合ったり、倒れた相手選手に手を差しのべて体を起こしてあげたりする行為がよく見られる。敵対しつつも、相手へのリスペクトを忘れないという友好的な行為だ。しかし、意地のぶつかりあいとなる日韓戦では、かつてはほとんど見られない光景だった。試合後の握手すらないこともあった。

 そうした印象が強くあるだけに、近年の日韓戦には友好的なシーンが増えたと感じている。今回の試合でも、韓国の主将を務めたキム・ヨングォン(現ガンバ大阪所属。かつてFC東京や大宮アルディージャでも活躍)は、開始早々の大迫勇也との接触プレー後すぐに大迫の背中をポンと叩いて気づかうしぐさを見せた。

 相手をリスペクトする行為はより健全なスポーツ精神に近づいている良い傾向だ。しかし、日韓戦の熱量を下げる要因になることも事実である。

戦後75年、薄れつつある先輩世代の継承

 そして、韓国社会の変化による影響も少なくない。戦後75年が過ぎ、国民の大半が戦争を知らない世代となったいま、先輩世代が受け継いできた「基本姿勢」の継承が薄れつつあるのではないだろうか。

 この20年で国際社会のグローバル化は急速に進んだ。日韓両国間の人的交流は増大し、日本のアニメや韓国のK-POP、韓流ドラマなどが自由に行き交う時代になった。韓国では、日本の戦争責任は認識しつつも、「スポーツや文化は別だ」とはっきり主張する世代も増えている。

 2019年には、韓国・ソウルの仁憲(インホン)高校の生徒が「学校から反日行為を強要された」と告発。事態はその後150人の抗議活動に発展し、社会問題となった。「目上の人を立てる」儒教の教えが根付く韓国社会だが、違うと感じれば声を上げる若者も出てきている。今後はこうした世代がサッカーの指導者になる時代がくる。「日本にはジャンケンでも負けてはならない」という先輩世代が受け継いできた教えは、今後も維持できるのだろうか。

 実力が拮抗する日韓戦はつねに紙一重の差が勝敗を分ける。韓国人選手の闘争心の柱となっている勝利への強い意識、「基本姿勢」が薄らぐことは、両者の「勝ちたい」という意識をより均等に近づける。つまりそれは、これまで顕著だった韓国人選手の気持ちの上での絶対的な「アドバンテージ」がなくなることを意味する。

 今後、韓国サッカーには「底力」を奮い立たせるための、「基本姿勢」に代わる新たなきっかけが必要になるかもしれない。個人的には、韓国サッカーを突き放すぐらいの日本サッカーの向上がそのきっかけになってほしい。

 いつの時代、どんな状況でも、つねに死闘を繰り広げる熱い日韓戦を見続けていたい。

(了)

by 北 コウタ
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