韓国サッカーと「兵役」事情。免除制度の恩恵で「選手の実力が落ちた」?
「兵役に関することは、選手選考においてまったく考慮していない」。東京オリンピックに出場するサッカー男子韓国代表のメンバー発表の席での、キム・ハクボム監督のコメントだ。
韓国では、オリンピックの開催が近づくと、メダル獲得の期待とともに必ず「兵役」の話題が出てくる。それは、メダルを獲得すれば約2年間の兵役義務が「免除」されるからだ。国民の関心は高い。
兵役を終えていない韓国の男性アスリートにとっては、「オリンピック出場=兵役免除のチャンスを得た」ことになる。メンバー入りするか、しないかで、選手キャリアが大きく変わる可能性があるのだ。
兵役は「国民の義務」。サッカー選手には長く、悩ましい
韓国の徴兵制は、健康な成人男性(19歳以上)に課される「国民の義務」だ。
その期間は約2年(最短は18カ月)。進学や芸能活動などを理由に延期できるが、28歳までには入隊しなければならない。そう法律で定められている。人気の高い芸能人だろうが、世界で活躍するトップアスリートだろうが、例外はない。
背景にあるのは1950年に起こった朝鮮戦争だ。1953年に休戦協定が結ばれたが、戦争が終わったわけではない。北朝鮮とはあくまで“休戦状態”なのだ。
国情は理解できても、アスリートにとって2年間の軍隊生活はあまりにも長い。ましてや、選手寿命が比較的短いサッカー選手にとっては悩ましい問題だろう。積み上げてきた選手キャリアを失う可能性もある。
こうした事情を考慮し、Kリーグ(プロサッカーリーグ)には、有望選手の入隊後の受け皿となる「金泉尚武FC(キムチョン・サンム)」という国軍体育隊チームが存在する。しかし、加入できるのは審査を通過した代表歴や海外経験のある一握りのトップ選手だ。競争率は高い。今季は、元北海道コンサドーレ札幌のク・ソンユンや元鹿島アントラーズでACL制覇に貢献したチョン・スンヒョンらの加入が発表された。
金泉尚武FCへの入団がかなわない選手は、一般の軍部隊に入るしかない。そうなると、プレー技術の維持は極めて難しいだろう。
五輪メダリストは「兵役免除」。アスリートが狙う「特例制度」とは?
高みを目指すアスリートなら、誰もが「入隊せずに、競技に打ち込みたい」と願うだろう。
そこで彼らが狙うのが、国際大会での成績優秀者のみに認められる兵役免除制度だ。「芸術・体育要員制度」と呼ばれる特例で、オリンピックでのメダル獲得(3位以内)とアジア競技大会(以下、アジア大会)での優勝が対象になる。
正確には免除ではなく、兵役に代わる「約4週間の基礎軍事訓練とスポーツ奉仕活動」を行う。それでも、長い軍隊生活を免れることができる「恩恵」は大きい。