ノルウェーの漁村、ヘニングスヴァールの絶景に溶け込むサッカースタジアム
ノルウェー北部ロフォーテン諸島の小さな漁村、ヘニングスヴァールにあるサッカースタジアムの存在を知った。
写真を見てのとおり、視覚的なインパクトがとにかく強い。サッカーバカなら思わず「おぉっ!」と声を上げ、ニヤけてしまう。こんなスタジアムがあったとは…。
教えてくれたのは、FIFA(国際サッカー連盟)の公式サイト。「世界で最も美しいサッカースタジアム」と紹介していた。なんでも数年前に、ドローンで空撮された動画がネット上に流れたところ、1週間で30万回以上も再生されたという。観光客は急増したそうだ。
まったく知らなかった。世界には興味深いスタジアムがあるものだ。探せば日本でも見つかるだろうか。
視覚的な美しさ引き出すフィヨルドの地形
ノルウェーは、ヨーロッパ最大の半島、スカンジナビア半島の西岸に位置する。
国土の海岸線は「フィヨルド」と呼ばれる氷河の侵食でできた入り組んだ地形。ロフォーテン諸島もまたフィヨルドできた群島である。そのフィヨルドの先端にあるヘニングスヴァールは小さな島々にまたがる漁村。500人余りが住むという。
スタジアムが放つ視覚的な美しさは風光明媚なフィヨルドの絶景に溶け込むことで引き出されている。そして人口500人余りの漁村がスタジアムを持つことは、ノルウェーの文化にサッカーが根付いてることを証明している。
500人の村民つなぐ、地元クラブの本拠地
調べてみると、村には1927年に創立の「ヘニングスヴァール IL」というサッカークラブがあった。ノルウェーサッカー協会 (NFF) に加盟し、ここで生まれ育った住民のほとんどがこのクラブに所属するという。サッカー以外にも、陸上、水泳、ハンドボール、アイススケートなど活動は多岐にわたる。
スタジアムはその本拠地だ。ヘニングスヴァールの頭文字「H」に「IL」を加えて、「HIL スタジアム」と呼ばれ親しまれている。岩盤を平らに整備して造られたピッチは人工芝。照明も完備されるが、観戦スタンドはない。アマチュアの試合専用といったところだ。
ピッチの周囲には、塩漬けしたタラを干すための棚が並んでいるのが見える。ロフォーテン諸島はタラ漁が盛んな地域。きっと魚の匂いや潮の香りがあたりを漂う中で、人々はプレーしているのだろう。
クラブが活動で使用するほか、幼稚園や学校教育でも使われている。貸し出しがなければ住民が自由に使う。ノルウェーの夏は日が沈まない「白夜」で有名だ。22時を過ぎてようやく日没をむかえるが、それでも真っ暗にはならない。夏は昼夜を問わず、24時間サッカーが楽しめるという。
また、スタジアムにはクラブハウスが併設される。住民たちの交流の場だ。試合観戦やプレーの合間に、ひと息つきながらコーヒーを飲むこともあるという。地域コミュニティを支える「ハブ」の役割も担う。
「観客席が無いなら、スタジアムと呼べるのか?」。そう言う人がいるかもしれない。でも、絶景に溶け込む「HILスタジアム」を見て、感じる何かがあるのなら、そんなことはどうでもいい。
(了)