4年目が終了したWEリーグ。クラブ別のホーム入場者数に大きな変化

5年目の「WEリーグ」が開幕間近だ。4年目の昨季からはJリーグの野々村芳和チェアマンがWEリーグ・チェア(理事長)を兼任。日本サッカー全体で女子サッカーを盛り上げたい姿勢がうかがえた。4年目のWEリーグの観客動員数はどうだったのか。クラブ別のホーム入場者数などをまとめた。 |
リーグ戦は1試合平均2138人 “注力試合”が全体を押し上げた
WEリーグは発足当初に「1試合平均5000人」の集客目標を掲げスタート。早くも4シーズンが終了した。
コロナ禍で行われた1年目と2年目の1試合平均はそれぞれ1560人と1401人。コロナ明けの3年目は前季比23%増の平均1723人と増加した。
4年目の2024ー2025シーズンはどだったのか。1試合平均は2138人(カップ戦は含まない)と再び増加した。
主な要因を探ると、入場者数全体を押し上げた“集客注力試合”の成果があった。
■「国立初の男女同日開催」で歴代最多を記録
特筆すべきは、2025年5月6日に国立競技場で初めて開催された「男女同日開催」だ。
ジェフ千葉レディースのホーム試合として行われ、大宮アルディージャVENTUSと対戦した。雨天にもかかわらず、WEリーグ史上過去最多となる26605人の来場者数を記録。約2時間後に男子の千葉と大宮が対戦するJリーグの試合が行われた。
企画は男子チームがともにJ2リーグに所属することで実現。一つの成功例として可能性を示した。
■広島と大阪の「観客動員1万人」企画が成功
サンフレッチェ広島レジーナとセレッソ大阪ヤンマーレディースがそれぞれ実施した「観客動員1万人プロジェクト」も大きな成果をあげ、全体を押し上げた。
広島は2025年3月8日に「自由すぎる女王の大祭典」と題し、ホーム試合を開催。当時のWEリーグ歴代最多となる20156人が来場した。2カ月後に記録は塗り替えられたが、初の2万人超えに沸いた。
一方、大阪は2025年5月17日に「#1万人よ咲き誇れ ~CEREZOファミリーいざ集結~」を掲げ、ホーム試合を開催。10294人を記録した。大阪は前季も同様の企画を実施し、6651人が来場。今回は飛躍的に増加した。
広島、大阪のいずれの入場者数も、WEリーグのリーグ戦歴代トップ5に入る記録だ。両クラブはJ1リーグに男子チームをもつほか、交通など利便性の高いサッカー専用スタジアムを本拠地とする点で共通する。
広島はWEリーグ目標値の「1試合平均5000人」を達成
クラブ別のホーム試合の入場者数はどうだったのか。
2024ー2025シーズンのリーグ戦は12クラブによる総当り戦で実施。各クラブの試合数はホーム11試合とアウェー11試合の計22試合だった。
下表は、ホーム11試合におけるクラブ別入場者数の合計を多い順に上から並べたもの。補足情報として開幕日と最終日、11試合中の最多日と最少日の数値も加えた(WEリーグ公式データをもとに集計)。

以下は、2023-24シーズンのデータ。比較材料として掲載する。

広島は、WEリーグが掲げる「1試合平均5000人」の目標を達成。昨季の平均2907人を大きく上回る5482人を記録し、断トツの1位だ。4年目にして初めて目標値を超えるクラブが出たのは大きな変化といえる。
2位の千葉は平均3623人。前季から急増したが、前述の「男女同日開催」のWEリーグ記録が全体を押し上げた背景がある。ホーム11試合の詳細を調べると、5試合が入場者数1000人未満。課題はまだありそうだ。
3位の大阪は前季比1.2倍超の平均3105人。継続して実施した「1万人プロジェクト」の手応えを実感しているはずだ。
■5クラブが昨季を下回る
三菱重工浦和レッズレディース、INAC神戸レオネッサ、マイナビ仙台レディース、大宮アルディージャVENTUS、アルビレックス新潟レディースの中位5クラブは昨季を下回った。
浦和と大宮はほぼ横ばい。仙台の大幅ダウンは成績不振の影響だろうか。
一方、日テレ・東京ヴェルディベレーザ、AC長野パルセイロ・レディース、ちふれASエルフェン埼玉、ノジマステラ神奈川相模原の4クラブは微増。
古豪の東京は念願の「王座奪還」を達成。だが、ホーム開幕戦時の入場者数2921人を超える試合は、その後優勝がかかる終盤戦を含めて1度も訪れなかった。男子チームと異なる東京北区に本拠地を構えて4年。これまでの地道な地域交流活動が今季の優勝を機に花開くことを期待したい。
クラブの要望を受け「普及目的スタジアム基準」を新設
WEリーグは2025年7月30日に開催した「2025年度 第1回理事会」において、各クラブが企画する「集客注力試合」に対しサポートすることを決議した。
1万人を集客目標とする「パイロットクラブ」を募集し、プローモーションやマーケティングなどの施策を費用面でサポートしていくという。広島や大阪が効果を示した“集客注力試合”の開催を他クラブにも促したい考えだ。
さらに「普及を目的とした場合のスタジアム基準」を新設。「ホームスタジアム以外で公式戦を開催したい」というクラブからの要望を受け、下記規約において下線部分が追加された。
WEクラブは、リーグ戦のホームゲームの80%以上をホームスタジアムで実施しなければならない。ただし、女子サッカーの普及等を目的とする場合や、理事会の承認を得た場合は、この限りではない。 |
これにより、例えば、「椅子席で5000人以上」が義務付けられている入場可能数は、「椅子席で1000人以上(仮設席も可)」でも可能になった。
主な「普及目的スタジアム基準」は以下のとおり(抜粋)。

このほか、最適なリーグ日程について議論し、「中断期間」の短縮を決めた。継続的なファンとの接点などを重視したという。
従来は1月から2月の丸2カ月の中断だったが、今季は1月から2月中旬までの約1カ月半に変更。開幕の時期を前倒しすることで調整した。そのため、今季は昨季よりも1カ月以上早い8月上旬に開幕する。
■埼玉は今季のホーム開幕戦を「ラグビー場」で開催
ちふれASエルフェン埼玉は、「熊谷スポーツ文化公園ラグビー場」でもホーム試合が開催できるよう申請し、承認された。8月16日に開催されるホーム開幕戦で初めて使用される。
陸上トラックが無いため、本拠地の「熊谷スポーツ文化公園陸上競技場」よりも客席とピッチとの距離が近い。サッカー観戦には最適だ。同ラグビー場は移動式のゴールになるため、これまで使用できなかったとみられる。

アメリカの女子プロサッカーは、かつて財政難を理由に失敗。2012年の再スタート後は、大学施設などの中小規模のグラウンドを試合会場にするなど身の丈に合った運営を進めたことで知られる。
設備の有無や優劣よりも、サッカーファンが観戦をより楽しめる環境を優先することは大いに賛成だ。
他の地域にも、同様の中小規模施設はありそうだ。
(了)