岡田武史元監督と闘莉王氏が日本サッカーに提言。「多様性が必要。強化の方向性、変える時期」
「日本サッカーは、そろそろ強化の方向性を変えなければならない時期に来ているのではないか?」
元サッカー日本代表監督の岡田武史氏が、日本サッカーや代表チームの強化のあり方について提言した。東京オリンピック終了直後の8月、元日本代表の田中マルクス闘莉王氏とテレビ番組に出演した際だ。銅メダルをかけた3位決定戦で破れた日本代表を見て、改めて感じたという。
足りないのは「主体的にプレーできる、自立した選手」。岡田氏は「自立していない選手は、追い込まれるとチャレンジできなくなる」と指摘した。一方、闘莉王氏は「選手はピッチで自分の考えをもっと発信すべき」と強調。2人が考える日本代表に必要なことは? 岡田氏の提言内容を中心に伝える。
日本人選手は、追い込まれると「主体的なプレー」ができない
岡田、闘莉王の両氏は「日本代表は強くなっている」と同意見。岡田氏は「スタッフを含めて経験値が昔とは違う」と全体的な底上げを評価した。しかし、世界のサッカーも日々成長しているため、差は縮まっているものの、成長曲線はゆるやかになっているとした。
一方、「個の力」で見ると「差はまだある」と両氏。岡田氏は「持っている力を100%出し切れなかった」「3位決定戦の前半はチャレンジできなかった」と東京オリンピックの試合に言及した。そしてその敗因は、追い込まれるとミスをしないよう慎重になる日本人の性格にあると指摘。岡田氏はこれを「“日本人の良さ”が出た」と表現した。
これについて、岡田氏は体験談を語った。過去に日本がベスト16に進んだFIFAワールドカップ(W杯)において、自らが率いた2010年南アフリカ大会と西野朗氏が率いた2018年ロシア大会の代表チームは、大会前にメディアから散々「ダメだ」と叩かれた。岡田氏は「叩かれて、最後に選手たちが『コノヤロー!』と開き直って主体的にプレーした。だからチャレンジもできた」と、2010年W杯を振り返った。(注*)
「日本人は、そうなると主体的にプレーするんだけど、そうじゃないとき、こないだの3位決定戦のような『勝たなければならない』となったら、“怖いもの知らずのチャレンジ”ができなくなってしまう」。日本人選手の欠点を指摘した岡田氏は、「そういう状況のときに“役に立つ”のがこういうヤツなんだよね」と言って、闘莉王氏に視線を向けた。
「自分はあまりプレッシャーを感じない。逆にそういう状況が好きだ」という闘莉王氏は、ブラジル出身の帰化選手として2010年W杯に出場。大会直前の選手ミーティングで「おれたちは下手くそなんだから、下手くそなりに、もっと泥臭くやらないと!」と檄(げき)を飛ばした。これをきっかけにメンバー全員が開き直って奮起し、チームは息を吹き返したというエピソードがある。
JFA主導の強化を見直し、「多様性」を重視した選手育成へ
プレッシャーを感じると、チャレンジできなくなる。
岡田氏はこうした日本人の弱い部分を変えるために、「強化の方向性を変える必要がある」と提言している。「(世界との)差は縮まっているが、追い越すためにはこれまでと同じことしていてはダメだ」。東京オリンピックを見て改めて感じたという。
改善策の一つとして訴えるのは、“中央集権的な強化”の見直しだ。現在は日本サッカー協会(JFA)が主導する強化方針に従い、Jリーグをはじめ全国各地のクラブや教育機関が指導を行う。岡田氏はこれを見直し、「多様性」を重視したやり方に転換すべきだと考えている。
Jリーグ開幕から「上り調子」だった時期は、「上」がある程度引っ張っていく必要があった。しかし、成長曲線はゆるやかになった。これからは「下」が多様な強化策を自由にやっていく時期ではないかと岡田氏は言う。「政治でいえば、大きな政府が命令したことをみんながやるのではなく、小さな政府の下でみんなが自由にやる」と例えた。