アルベル体制1年目のFC東京の評価と課題は? ― 熱烈サポが総括!(2/2)
スペイン人のアルベル監督の就任やIT大手のミクシィによるクラブ経営など、2022年のFC東京はピッチ内外で多くの変化を求めた。今季のJリーグ6位をどう評価すべきか? 来季に向けた改善点は? 東京生まれのサッカーバカで、FC東京の熱烈サポーターのクンさんによる総括レポートを2回に分けてお届けする。第2回は、来季に向けた課題と期待する選手、ミクシィのクラブ経営で感じた変化などについて。 |
アルベル体制1年目のFC東京。評価と課題は? ― 熱烈サポが今季を総括!(1/2)の続き
アルベル・サッカーの完成度は60% 来季に向けた2つの改善点は?
前回に伝えたアルベル監督が目指す新しいサッカーの完成度だが、おおむね60%といったところだろうか。
筆者が考える主な改善点は2つ。1つ目は、オフザボールでの動きの少なさ、再現性の低さだ。
シーズン中盤あたりからはインサイドハーフの裏への飛び出し、終盤の第30節京都戦あたりからはファイナルサードでのサイドバックのオーバーラップが増えるなど、進化・改善は進んではいる。だが、3人目を利用した中央での崩しのバリエーションの少なさや、ミドルゾーンでディエゴオリヴェイラ、ルイスフェリッピにくさびを入れた後の連携はシーズンを通して課題となり続けた。
来季は2、3列目と前線3枚の関わり方の練度をいっそう高めることが必要だろう。夏に新加入した塚川や今冬にサガン鳥栖からの加入が発表された小泉慶を含め、選手はそろっているだけに、得意な「パターン」ができてくれば一気に上昇気流に乗っていけるだろう。
2つ目の改善点は、最終ラインのメンバーが固定されてしまっていることだろう。
左右のサイドバックでアルベル監督からの信頼を得られたのは長友佑都、中村帆高、バングーナガンデ佳史扶、小川諒也の4選手。小川は夏に海外へ移籍してしまったため、実質2つのポジションを3人で回す状態だった。
いずれも守備を重視する長谷川前体制時代に加わった選手たちであり、相手がブロックを敷く試合展開では違いを作れるタイプではなく、攻撃時の連携では柔軟性に欠けた。シーズン序盤に渡邊凌磨を右サイドバックで起用することもあったが、さすがに守備が不安定になり頓挫。いまいち最適解を見いだせなかった。
一方、センターバックはさらに序列が明らかだった。信頼されたのは森重真人、木本恭生のみで、ほとんどの試合でコンビを組んだ(エンリケトレヴィザンは長期離脱がなければ一定の出場時間を得られただろう)。
森重と木本のビルドアップ能力はリーグトップクラスだが、2人ともアジリティやスピードに難がある。そのため、アルベル監督の求めるハイラインとの親和性は低い。しかし、彼らを総合的に上回る選手が現れない。その結果、相手チームの戦術によって組み合わせを変えることができず、縦に速いサッカーを志向する湘南や福岡、名古屋との試合では背後を狙われ、実際に勝ち点の取りこぼしにつながってしまった。
来季に向けてはサイドバック、センターバックともにタイプの異なる組み合わせを作り、柔軟性のあるチームにしていく必要がある。
柔軟性のあるチーム作りに向け、期待したいDF3選手
こうした中、この12月にJ2ファジアーノ岡山からサイドバックの徳元悠平を獲得することが発表された。徳元はインナーラップして攻撃参加できるプレイヤー。的確な補強といえるだろう。だが、J1でどこまで通用するかは未知数な上、長友が今までのようにフル稼働できるかもわからない。
そこで、特に期待したいのがバングーナガンデ佳史扶だ。
オーバーラップの積極性と鋭いクロスが長所である彼は、ビルドアップの際のポジショニングと対人の強さが向上すれば、間違いなくチームに欠かせない存在になるだろう。FC東京のアカデミー育ちということもあり、足元の技術も高い。なんといってもチームメイトには「長友佑都」という最高のお手本がいるので、守備力も備えた万能なサイドバックになることを期待している。
そして、センターバックでキーになるのは今夏にレンタルバックした、こちらもクラブ生え抜きの木村誠二。昨季まで在籍し現在はベルギー・コルトレイクに所属する渡辺剛を思い出させる身体能力の高さが売りの選手だ。
木村はシーズン終盤、リード時のオプションの1つである5バックの一角としてコンスタントに途中出場した。第31節のアウェー鹿島戦ではフル出場し、無失点勝利に貢献するなど能力の高さをみせた。俊足でハイラインのケアもできる木村は、細かい守備やビルドアップの質が洗練されれば、来季のスタメン出場が増えてもおかしくないだろう。
ボランチで定位置つかんだ東慶悟の成長 ビルドアップが安定
独断と偏見になるが、今季のFC東京で筆者がとりわけ成長を感じた選手がいる。東慶悟だ。
今季の彼は、ここ数年で最も苦しかったであろうシーズン序盤を過ごした。前述の通り、アルベル監督はインサイドハーフに高いインテンシティとボール奪取能力を求める。長くトップ下やサイドハーフでチャンスを創ってきた10番タイプの東にはマッチせず、時にはベンチ外も経験した。
しかし、東は巡ってきたチャンスを見逃さなかった。リーグ第15節のアウェー清水戦でボランチとして出場すると、すばらしいプレーを見せた。中間ポジションでボールを受けてテンポよく左右にさばいては、状況に応じてセンターバックの間に降りてビルドアップを安定させ、隙あらば鋭い縦パスを差し込んだ。
東はこの試合をきっかけに少しずつ試合に絡めるようになり、青木拓矢の離脱はあったものの、第19節福岡戦以降の全試合でボランチの定位置をつかんだ。
さらに言えば、試合勘を取り戻すとともに守備面も目覚ましく成長した。自分のマークに縦パスが入ればきつくプレスをかけ、中途半端なパスをことごとくカット。かねての「パサー」の役割に加え、「潰し屋」としても覚醒し、ポジショナルサッカーにおける理想的なボランチへと進化した。
ミクシィによるクラブ経営で感じた「ライト層」の変化
最後に、ミクシィによるクラブ経営について。
最も分かりやすかった変化は、スタジアムでの興行面だ。今季から不定期ではあるが花火や炎が上がる演出が追加されたり、試合前には専属のDJによるハイテンションなEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージックの略)が流れたりした。
国立競技場で開催されたリーグ第30節の京都サンガ戦の試合前には、若い世代に人気の高い音楽グループ、Little Glee Monsterが歌を披露し、話題を呼んだ。
これらを踏まえ、今季も頻繁に味の素スタジアムに通った筆者が感じたのは、ライト層、いわゆる「にわかファン」の表情の変化だ。例年より楽しんでいるように見えた。
昨今のサッカー界では、「コアなファンをもてなす、優遇する」ことよりも「にわかファンをどう取り込むか」に重心が置かれているため、良い変化と言えるのではないか。結果的に、FC東京はホーム観客動員数でリーグ2位を記録した。
(了)