2年目の「WEリーグ」が終了。クラブ別のホーム入場者数はどうだった?
2年目の「WEリーグ」が終わった。コロナ禍の船出となった初年度は、秋春制の導入など様々な要因がリーグ全体の観客動員に影響を及ぼした。2年目はどうだったのか。クラブ別のホームゲーム入場者数をもとに、1年目と比べながら考察した。 |
リーグ全体の平均入場者数は1401人。昨季を下回った
創設1年目の昨季は「1試合5000人」の集客目標を掲げた。しかし、結果は1試合平均1560人。認知度の低さ、コロナ禍、秋春制移行などの様々な影響があった。
2年目の今季、各クラブは1年目の課題を受けて集客策に取り組んだはずだ。ただ、コロナ禍に変わりはなく、困難な状況が改善されたわけではなかった。
それでも、WEリーグは開幕前に「新型コロナウイルス対応ガイドライン」を更新。条件付きで一部の声出し応援席の設置を認めた。さらに今年2月には、政府の通知を受けて来場可能数の上限100%での開催を決定。スタジアム全席での声出し応援も可能にし、ウィンターブレイク明けの後半戦に向けて環境を整えた。
こうして終了した2年目のWEリーグ。集客数はどうだったのか。結論を先に言えば、1試合あたりの平均入場者数は1401人と昨季の1560人を下回った。
初年度に比べて2年目の注目度が下がるのはやむを得ないだろう。
また、今季は開幕前にカップ戦が導入されたため、リーグ開始は2022年10月22日だった。この時期はカタールで開幕が迫る男子のワールドカップに話題が集まったころだ。日本中の熱視線の先には「サムライブルー」。影響は少なからずあったはずだ。
昨季のホーム集客数を上回ったのは浦和、仙台、埼玉の3クラブ
昨季と同様に、ホーム戦におけるクラブ別の入場者数を調べた。
今季も変わらず11クラブによる総当り戦。各クラブの試合数はホーム10試合とアウェー10試合の計20試合だ。
下表は、ホーム10試合におけるクラブ別の入場者数の合計が多い順に上から並べたもの。WEリーグ公式データをもとに調べた。補足として開幕日と最終日、10試合中の最多日と最少日の数値も加えた。
以下は、昨季のデータ。あわせて見比べたい。
今季、ホーム戦の入場者数の合計が昨季を上回ったクラブは3つ。三菱重工浦和レッズレディース、マイナビ仙台レディース、ちふれASエルフェン埼玉だ。
リーグ制覇の浦和は昨季より2472人増の23796人。ホーム入場者数でも1位だった。
浦和はリーグ戦とカップ戦の2冠を達成。着実なクラブ強化が人気や認知度の高まりにつながっている印象がある。また、アウェー10試合の平均入場者数は1789人でリーグ全体の平均を上回った。対戦クラブのホーム戦集客数にも貢献しているようだ。
ちふれASエルフィン埼玉は1728人増の12113人。成績は2年連続の最下位だったが、ホーム入場者数は6位に上げた。
ちふれ埼玉のホームタウンは、県内の狭山市、飯能市、日高市、熊谷市と広範囲だ。各自治体とは幅広い連携協定を結ぶ。今季はホームスタジアムがある熊谷市の子どもたちとの交流活動が高く評価され、WEリーグアウォーズで「選手主体部門」を受賞。課題の戦力強化が進めば、さらなる観客動員が見込めそうだ。
ただ、浦和、ちふれ埼玉については、大宮アルディージャVENTUSを含めて同じ埼玉県内で集客を補完し合える環境にある。他のクラブよりも有利だ。
マイナビ仙台は「恩返し」意識した活動で、ホーム集客150%増
ここで注目したいのがマイナビ仙台レディース。昨季比150%超えの17974人(6241人増)を記録した。その背景には、クラブを運営する株式会社マイナビフットボールクラブの経営陣の刷新がありそうだ。
昨年7月、本棒陽一氏が新たに社長に就任。クラブは豊富なアイデアをもとに次々に施策を打ち出している。コンセプトは「宮城の人々に愛される、東北を代表する女子スポーツチームになろう」。市民とのつながりや地域への「恩返し」を意識した多彩な活動を展開中だ。
例えば、県内の小中学校にサッカーボールを贈る活動。ほかにも、子どもを対象にしたサッカー職業体験「キッズインターンシップ」や物産展をスタジアムで実施した。いずれも好評だったという。仙台銘菓「萩の月」のパッケージ(化粧箱)を飾る選手8人をファン投票で決めた“萩の月総選挙”は、市民を巻き込んだ斬新な企画として話題となった。
一方、集客策は従来の「若い女性層をどう取り込むか」から、前後のイベント開催を含め「どうすればスタジアムに行きたいと思ってもらえるか」に考え方を転換。
ホーム開幕戦では一部の自由席に県民限定の無料招待エリアを設置し、3117人の来場者を記録した。
今年5月にはJリーグのベガルタ仙台と協力し、初のダブルヘッダーを開催。ベガルタの試合で配布したチラシを持参した人は続くマイナビレディースの試合を無料で観戦できるようにした。
地元のテレビ局と連携したメディア戦略にも積極的だ。本棒社長によると、最近はスポーツ番組以外の出演に取り組んでいるという。認知度の向上がねらいだ。
昨年10月に放送された人気アイドルグループ「Snow Man」の冠番組は大きな反響を呼んだ。「女子サッカーの観客を増やしたい!」との“お悩み解決”企画として、メンバーがクラブを訪問したからだ。メンバーは選手とともに来場を促すコラボ動画を制作。ホーム開幕戦で披露した。今季の観客増につながる起爆剤だったかもしれない。
クラブは、WEリーグ開幕前の2021年2月にベガルタ仙台よりマイナビが経営権を取得、子会社化された。マイナビグループ初のプロスポーツ経営であり、社運もかかる。
地元メディアの取材に対し本棒社長は、「来季は観客動員数平均2000人を超えたい。(成績は)トップ3に入り込める戦力を強化したい」と意気込みを語った。
8クラブが昨季を下回る 神戸、千葉、新潟は順位もダウン
今季、ホーム入場者数が減少したのは8クラブ。その中で順位も落としたクラブは3つ。INAC神戸レオネッサ、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース、アルビレックス新潟レディースだ。
神戸については、2連覇を逃した2位。昨季のホーム入場者数には国立競技場で開催した12330人が含まれるため、今季の21940人は悲観する数値ではないかもしれない。
千葉は昨季4位の成績が8位に。ホーム入場者数は4606人減の9093人と1試合平均が1000人を切った。クラブとしてはやや悩ましい結果だろうか。
一方、ホーム入場者数で最下位の新潟は昨季比1478人減の8095人。8000人台は唯一。クラブとしては悔しい結果となった。ケガ人が多く開幕から不振にあえぎ、リーグ戦は10位と低迷。勝ち点16は最下位の埼玉と同点で、得失点差で上回った。成績、集客ともに数値だけをみると元気がない印象が残る。
WEリーグが今季を総括 ブランディング強化の方針示す
6月下旬、WEリーグは2022-23シーズンの総括を発表。「コロナ禍の影響が残るシーズンではあったが、安心安全なリーグ運営に努め、今後のWEリーグの成長にむけた基盤づくりを行った1年となった」とした。
競技レベルは、「Instat」のデータ数値が攻守ともにアップしたという。初年度に比べてよりアグレッシブなリーグになったと評価した。
一方、入場者数については「全体の平均入場者数の変化はあるが、クラブによっては入場者数を伸ばしている」とし、続けて「リーグとしての認知度向上、ブランディングを強化する一方で、各クラブの集客努力を後押しする」と強調。ブランディン強化の方針を示した。
「数値目標にとらわれなくてもよい」 高田チェアは独自の見解
リーグ閉幕後、WEリーグ2代目チェアの高田春奈氏は(昨年9月に就任)、日本経済新聞6月27日付のインタビューで独自の見解を語っていた。
高田チェアは、リーグ創設当初の「一試合平均5000人」の目標値はJリーグを参照した数値だと前置きした上で、「それだけが基準点ではない。それとは別に会場での顧客満足度を測れるかもしれない」と語った。
また、「日常的な試合の中で大イベントもあるモデルを目指すのか、Jリーグのように日常的に何千人もの観客に来てもらうスタイルを目指すのかは、議論の上で定めていくべきこと」とし、「現段階では、数値的な目標だけにとらわれなくてもよいのでは」との見解を示した。
確かに、WEリーグはまだスタートを切ったばかりだ。
すべてのクラブが集客努力を積み重ねていることは間違いなく、数値だけをみて一喜一憂する段階ではない。数値は結果として受け入れつつ、クラブはまず安定的な集客を得るための基盤をつくりたいだろう。
そのためにも、高田チェアはWEリーグの魅力を知ってもらうための「ブランディング」に注力したい考えだ。
「サッカーファンの評価軸でみた女子サッカーと、サッカーを知らない人の感じる女子サッカーは、また違う。『サッカー村』から少し抜け出し、われわれも気づいていない価値や魅力を掘り起こし、可能性を広げたい」と、3年目に向けた抱負を語った。
「『サッカー村』から少し抜け出したい」という考えに期待感がふくらむ。サッカー経験者ではない高田チェアならではの発想だ。創設まもないWEリーグだからこそ、いろいろと試しながら進める。世界に例のない日本独自の女子プロサッカーリーグをつくる。優先すべきはそこだ。
(了)