W杯出場は至上命令。サッカー中国代表「帰化選手」急増のワケ
8つのグループに分かれるアジア2次予選は、各グループの首位と2位のうちの上位4カ国が最終予選へ進む。Aグループの中国は4試合を戦って2勝1分1敗。勝ち点7の現在2位だ。フィリピンと引き分けたことが大きく響いた。5戦全勝で暫定首位のシリアには勝ち点8差をつけられている。
中国は残り4試合を全勝しても、シリアが下位に取りこぼさなければ首位通過はない。2位通過が現実的だ。今回は大量得点をにらんでのメンバー選考なのかもしれない。
招集外となったが、実力ある帰化選手はまだいる
5人のほかにも、出場が可能で実力のある帰化選手はまだいる。
河北FC所属のブラジル出身FW、アロイージオ(32、中国名:洛国富)は昨年に中国籍を取得している。グレミオの下部組織で育ち、サンパウロなどで活躍。2014年に山東魯能へ移籍し、2015年シーズンに22得点をあげて得点王に輝いている。直前の合宿には招集されていたが、今回は最終的にメンバー外となった。
将来の活躍が期待される若手もいる。
北京国安所属のMFジョン・ホー・サテル(23、中国名:侯永永)はノルウェーで生まれた。母親が中国人だ。
国内を代表するローゼンボリの下部組織で育ち、ノルウェーのU-16、U-17、U-18で代表歴がある。スターベクから2019年1月に北京国安に移籍、同時に中国籍も取得した。ティアス・ブラウニングと同様、昨年のFIFAの規約改正により中国代表でのプレーが可能になった。
一方、思わぬ誤算で代表でのプレーが遠のいた選手もいる。
広州FC所属のブラジル出身FWリカルド・グラル(29、中国名:高拉特)はクルゼイロから2015年に広州恒大へ移籍。同年のアジア・チャンピオンズリーグで得点王に輝き、チームの優勝に貢献すると、翌2016年には中国スーパーリーグで23得点をあげMVPと得点王に選ばれた。2014年にブラジル代表に招集された経験もある。
グラルは2019年末に中国籍を取得したが、2018年春からブラジルのパルメイラスに4ヶ月間レンタル移籍したことで、FIFAの国籍変更に必要な5年以上の中国居住歴がリセットされたことが判明。そのため、中国代表としてのプレーが認められるのは早くても2023年となった。
中国サッカー協会は「帰化戦略は長期的なものではない」と強調
帰化戦略について、中国サッカー協会は「長期的な戦略ではない」としている。
昨年7月、メディアの取材に応じた同協会の劉奕(リウ・イー)事務局長は、「外国籍選手の帰化申請を進めるにあたっては懸念もあった。しかし、サポーターたちは『代表チームが底上げされ、ワールドカップ出場の助けになるのなら』と帰化選手の中国代表入りを喜んでいる」と話した。さらに劉氏は「帰化戦略は長期的なものではない。試合でスタメンの3分の2がブラジル出身選手になることはない」と強調した。
一方、中国国営の新華社通信は、FIFAの規約改正直後に「“帰化の新ルール”を冷静かつ理性的にとらえよう」と題する記事を報じた。
記事は、FIFAの規約改正が「中国だけを対象としたものではない」とした上で、「FIFAの目的は、規制緩和による選手の移動によって国家間のレベルの差を縮めること。サッカーの発展が遅れている地域はレベルが底上げされ、W杯などの国際大会への出場機会を得るだろう。サッカーが盛んな国が増えることは、サッカーの発展と、世界におけるサッカーの影響力の拡大につながる。FIFAはサッカーの将来を見通した上で規約改正を行った」と主張した。
また、「帰化は、サッカーの世界では一般的なルールだ」として、フランス代表を例にあげて「恩恵を受けている国は多い」と指摘。その上で中国の立場については、「中国サッカーはつねに帰化に慎重であり、いまだ模索中だ。われわれは(FIFAによる)“帰化の新ルール”を冷静に、理性的にとらえなければならない。どうすればうまく活かせるか。それには知恵が必要になる」と伝えた。
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中国の帰化戦略は功を奏するのか。最終予選に勝ち上がった場合は日本と対戦する可能性もある。その点もふまえながら、アジア2次予選の行方を見届けたい。
(了)