訪れてみたい、“サッカー侍”が戦った街 ― グラスゴー(スコットランド)
日本サッカーの成長とともに、いまや日本人選手の海外移籍は後をたたない。それはヨーロッパのみならず、世界各国に及んでいる。そんな“サッカー侍”たちが、かつて戦った街がある。いま戦っている街がある。それだけで、「いつか訪れてみたい…」。そう思わせる魅力がある。 |
中村俊輔がレジェンドになった街。セルティックFCで黄金期を築く
スコットランド南西部にあるグラスゴー。首都エディンバラをしのぐ最大の都市だ。国内2強と言われるサッカークラブがしのぎを削る。
その一つ、セルティックFCはとりわけ日本と縁の深いクラブだ。日本代表で長く10番を背負ったファンタジスタ、中村俊輔が4年間在籍し、黄金期を築いた。クラブではいま、4人の侍(井手口陽介、旗手怜央、古橋亨梧、前田大然)がプレーする(2022年10月現在)。
グラスゴーでの中村の活躍をいまさら詳しく語る必要はない。2006年、UEFAチャンピオンズリーグでのマンチェスター・ユナイテッド戦で決めた2発の直接フリーキックは語り草。クラブ史上初の決勝トーナメントへ導いた。2006-07年シーズンの優勝をたぐり寄せたロスタイムのフリーキック決勝弾も鮮烈で忘れがたい。
中村の加入でセルティックのサッカーは変わった。ロングボール主体の戦術はパスサッカーへシフトチェンジ。狭いエリアでもボールを受けて、パスを供給できる中村の能力を最大限に活かしたものに変化したのだった。
在籍した4年間でクラブはリーグ3連覇を達成。中村自身は、2006-07年シーズンにベストイレブンとリーグMVPを受賞した。1888年創立の古豪セルティックのレジェンドの一人として、そのプレーはいまもサポーターの心の中で輝き続ける。
産業革命で商工業が発達。戦後不況を経て、現在は芸術・文化の街に
グラスゴーはクライド湾に注ぐクライド川の岸辺に発展した。イギリスの首都ロンドンからは高速列車で約5時間の距離にある。北緯56度付近で、北海道よりもはるか北にある。
紀元前から集落が存在し、6世紀ごろにキリスト教の聖マンゴーの伝道により街がつくられた。水運を利用して貿易が盛んになった16世紀ごろから街の役割は大きくなった。
1707年、スコットランド王国とイングランド王国が合併(イギリス連合王国の成立)。その後、産業革命が始ると、街では綿工業や造船業などの商工業が発達した。スコットランド産業の中心地として栄え、新大陸アメリカとの貿易にも大きく貢献した。
しかし、第二次世界大戦後はイギリス経済の低迷により衰退。1960年代には造船所が相次いで閉鎖され、不況期は1980年代まで続いた。
1990年以降のグラスゴーは都市再生を図った。
街に点在する「ヴィクトリアン・ゴシック」と呼ばれる19世紀の重厚な建造物や、地元出身の建築家チャールズ・レニー・マッキントッシュが残したモダン建築を活かした観光業に力を注ぎ、「芸術と文化の街」への転換を目指した。
取り組みの成果は徐々にあらわれ、経済も回復。いまでは年間約300万人の観光客が訪れる観光地へと生まれ変わった(ロンドン、エディンバラに次ぐイギリス3番目)。
1451年創立のグラスゴー大学は、“日本のウイスキー”ゆかりの地
街は、グラスゴー中央駅付近の中心部と、東側の通称「イーストエンド」、西側の「ウエストエンド」に大きく分けられる。
中心部を南北に走るブキャナン通りは、グラスゴー最大のショッピングエリア。休日には大勢の市民や観光客でにぎわう。
下町の雰囲気が漂うイーストエンドには歴史的建造物が多く残る。
中でも、1136年建築のグラスゴー大聖堂は宗教改革による破壊を免れた貴重なもの。内部の荘厳な装飾に目を奪われるだろう。地下には街の創始者、聖マンゴーの墓がある。
一方、ウエストエンドは文教地区の印象が強い。
美術館や博物館を含む広大なケルヴィングローヴ公園は市民の憩いの場。その一角にあり、まるで城のような外観のグラスゴー大学の創立は1451年。街の歴史を物語る象徴となっている。
グラスゴー大学は、蒸気機関を発明したジェームズ・ワットや「国富論」をとなえた経済学者アダム・スミスを輩出した名門だ。
また、「日本のウイスキーの父」と言われ、ニッカウヰスキーを創業した竹鶴政孝が留学し、ウイスキーの製造技術を学んだことでも知られる。
スコッチウイスキーをかけて食べるソウルフード「ハギス」
「ハギス(haggis)」というスコットランドのソウルフードがある。
ゆでた羊の内臓ミンチ、オート麦、タマネギ、ハーブを刻み、牛脂とともに羊の胃袋に詰め、ゆでるか蒸した詰め物料理。肉屋の総菜としても売られている伝統料理だ。
このハギスに欠かせないのがスコッチウイスキー。アツアツのハギスにたっぷりのウイスキーをかけるのが本場の食べ方だという。
国内各地にウイスキー蒸溜所があるスコットランド。グラスゴーにも市中心部から北西に16kmほど行った高台にオーヘントッシャン蒸溜所がある。この地域の代表的な銘柄だ。
オーヘントッシャン最大の特徴は、3回蒸溜する伝統の製法。モルトウイスキーは通常2回の蒸溜が主流だが、オーヘントッシャンは3回繰り返すことでアルコール度数を高く保ち、より純粋アルコールに近づける。それにより、軽やかですっきりとしたシングルモルトに仕上がっている。