海外サッカー

サッカーと「パレスチナ問題」― U-20W杯インドネシア開催はなぜ中止されたのか?

 設立当初の名称は「エレツ・イスラエル」(直訳すると「イスラエルの地」)。設立翌年の1929年にFIFAに加盟し、1934年と1938年のFIFAワールドカップ(W杯)予選に出場した。

 イスラエル建国後は、「イスラエル・サッカー協会」に改称され、1956年にAFCに加盟。1964年には自国開催のAFCアジアカップで優勝している。また、1970年のW杯メキシコ大会にアジア代表として出場した。

■周辺のアラブ国家と関係悪化 1974年にAFCから除名

 だが、中東戦争の激化がイスラエルのサッカーに影を落とす。

 周辺のアラブ諸国やアジア各国との関係が徐々に悪化。イスラエルに対する対戦拒否や大会参加拒否などの「ボイコット」が相次いだ(この動きはサッカーにかぎらず、スポーツ界全体におよんだ)。その後、1973年に起こった第4次中東戦争が大きく影響し、翌1974年にAFCから除名処分となった。

1964年のアジアカップを制したイスラエル代表
自国で開催したAFCアジアカップで優勝し、カップを掲げるイスラエル代表選手。1964年

 AFC脱退後のイスラエルは、どの大陸のサッカー連盟にも属さない「宙ぶらりん」な状態が長く続いた。ときにはオセアニア枠で、ときにはヨーロッパ枠でW杯予選を戦い、遠方での試合を強いられた。

 こうした異例の扱いに対し、イスラエルはヨーロッパサッカー連盟(UEFA)への加盟を希望。1992年に正式に認められ、以後の国際大会の予選はヨーロッパ枠に組み込まれている。UEFA加盟後のW杯出場はいまだない。

 一方、パレスチナ人による協会組織は、イスラエル建国後にパレスチナ・サッカー協会が1962年に結成された。AFCにはイスラエルサッカー協会が除名された1974年に加入。FIFAには1998年に加盟した。

パレスチナ支援の根底にある同胞意識「アラブの大義」

 インドネシア国民の反イスラエル感情、パレスチナ支援の根底にあるのは、「アラブの大義」と呼ばれる同胞意識や強い連帯感だ。

 独立の父、スカルノ初代大統領は「パレスチナ国家の独立なくして、イスラエルとの国交はない」というアラブ諸国の誓いに同調する姿勢を示した。以来、国民はその思いを受け継いでいる。

 一方、2022年11月から12月にかけて開催された中東初のW杯カタール大会でも、「アラブの大義」を示す連帯感がみられた。

 大会にイスラエルは出場していない。にもかかわらず、スタジアムの内外でパレスチナ旗を掲げるサポーターの姿が見られた。また、スタンドを覆う「Free Palestine」と記された横断幕もあった。おそらく開催国のカタールを含むアラブ諸国の人々やイスラム教徒だろう。

■W杯でパレスチナ旗を掲げたモロッコ代表 その意図は?

 さらに、大会に出場した代表チームにも同様の行為が見られ、話題になった。快進撃でアフリカ勢初のベスト4入りをはたしたモロッコだ。

 決勝トーナメントに入り、強豪国のスペインとポルトガルを立て続けに破った。ピッチ上で歓喜に湧くモロッコの選手たち。このとき、いずれの試合でもパレスチナ旗を掲げる選手がいたのだ。

パレスチナ旗を掲げるモロッコ代表選手
準々決勝の試合後にパレスチナ旗を掲げるモロッコ代表選手。2022年(source: getty images)

 モロッコは人口の3分の2をアラブ人が占め、イスラム教を国教と定める。パレスチナを支援する立場だ。しかし、2020年10月にイスラエルと国交正常化で合意。外交的には関係強化を進めることを確認している。(*)

 それなのに、W杯の試合後にパレスチナ旗を掲げたモロッコの選手。その意図は何だったのか。もしかすると、失われた「アラブの大義」に対するメッセージだったのかもしれない。

 FIFAは試合会場での政治的メッセージの発信を禁じている。ところが皮肉にも、中東初のW杯はパレスチナ独立を願う人たちが連帯を示す場となってしまったようだ。国際サッカーを主導するFIFAとって、「パレスチナ問題」もまた民族紛争がからむ懸念事項の一つと言えるだろう。

(了)

*…1979年にエジプトが、1994年にヨルダンが、イスラエルと平和条約を締結。その後、2020年にアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダン、モロッコが相次いでイスラエルと国交正常化で合意した。しかし、後の4カ国の国交正常化については、各国の利益優先や仲介したアメリカ・トランプ政権の外交実績優先の印象が強く、国際社会では賛否両論があった。なお、スーダンは後の軍事クーデターにより政府が追放され、正式合意には至っていない(2023年4月時点)。

by KEGEN PRESS編集部
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