カルチャー

韓国サッカーと「兵役」事情。免除制度の恩恵で「選手の実力が落ちた」?

韓国の至宝ソン・フンミンはぎりぎりで免除を勝ち取った

 18歳でA代表入りし、将来の韓国サッカーを背負う逸材として注目されてきたソン・フンミン(イングランド・トッテナム所属)は、2018年にインドネシアのジャカルタで開催されたアジア大会で優勝するまで「兵役問題」を抱えていた。韓国は2014年に仁川(インチョン)開催のアジア大会でも優勝しているが、そのとき彼は出場していない。当時、ドイツの所属クラブが許可しなかったためだ。

 2018年のアジア大会当時のソン・フンミンは27歳。入隊期限が迫っていた。兵役義務が残る彼の選手キャリアを案じた所属先のトッテナムは出場を容認した。

サッカー韓国代表のソン・フンミン
2018年アジア大会の優勝がなかったらソン・フンミンはどうなっていたのだろうか?(source: the-afc.com

 決勝戦の相手は、東京オリンピックを見据えて21歳以下の若手で臨んだ日本だった。一方の韓国は、大会規定どおりの23歳以下の選手と年齢を問わないオーバーエイジ枠の3人をフル活用。兵役を終えていない「海外組」選手を含む“最強布陣”で戦った。「兵役免除」を後押ししたい韓国サッカー協会(KFA)の思惑がにじんだ。

 韓国は延長戦を制して優勝。兵役が免除されたソン・フンミンの市場価値は高騰し、強豪クラブによる獲得の噂が出たほどだ。

 もしもあのとき、韓国が日本に負けていたら、彼のその後の選手キャリアはどうなっていただろうか。韓国の徴兵制がいかにアスリートの人生に影響を及ぼすかを考えさせる。

近年は免除の是非めぐる議論も。不正行為で国民の厳しい目

 「国威発揚」や「国民の士気向上」に寄与した“ご褒美”として設けられた「芸術・体育要員制度」だが、近年はその是非をめぐりたびたび政府内で議論されている。アジア大会のメンバー選考における不正疑惑が取り沙汰されたり、「兵役の公平性」を訴える意見が出たりしているからだ。

 かつてFC東京などで活躍したチャン・ヒョンス(サウジアラビア・アルヒラル所属)は、兵役に代わるスポーツ奉仕活動の実績を偽って報告したため、2018年に韓国代表を永久追放されている。

 少子化による将来的な兵役人員の不足が叫ばれる中、こうした不正行為が起きれば、「特例」にも国民の厳しい目が向けられるのは当然だろう。

「実力が落ちている」元代表監督のチャ・ボングン氏は疑問視?

 一方で、兵役免除の効果を疑問視する人もいる。元韓国代表監督で現役時代はドイツのブンデスリーガで活躍したチャ・ボングン氏(68)だ。

 彼は2018年にソウルのスポーツ紙の取材を受けた際、「私は、選手たちが兵役に行かなければ欧州でもっとサッカーに没頭できると思っていたが、(兵役免除の恩恵を受けたことで)むしろ実力が落ちている気がする」と話したという。代表チームの不振について聞かれたときだ。

by KEGEN PRESS編集部
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