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40代でも「進化」を続ける安藤梢のすごさ。その背景を探る

 意識の変化はさらなる高みを目指すことに。

 女子サッカー部を退部し、現在の浦和レッズレディースの前身「さいたまレイナスFC」に加入した。大学からバス、電車を乗り継ぎ2時間半をかけて通ったという。

 前出の『TSUKUBA WAY』の中で安藤は、「自分の研究を自分のサッカーの成長につなげること、そしてサッカーをプレーする中で出てきた課題を研究につなげることをずっとやってきた。それは今も変わらない」と語る。

 大学2年といえば20歳前後。このころからすでにスポーツ科学を取り入れた効率的なトレーニングを行っていた。40歳になっても高いパフォーマンスを発揮できるわけである。

 また、こうしたサッカーへの飽くなき探究心。まだうまくなりたい、もっとうまくなたい、という貪欲さ。その姿勢は56歳の現在も現役選手として挑戦を続ける三浦知良(カズ)に通じるものがある。

ドイツ生活で学んだ「サッカーは格闘技」 自己主張の大切さ

 安藤のサッカー史を語る上で欠かせないのがドイツでの武者修行だ。

 2009年12月にドイツ女子1部のFCR2001デュースブルクに移籍。海外生活が始まった。2017年6月に浦和レッズレディースに復帰するまでの約7年半、国内3クラブでプレー。この間、筑波大学の博士課程は休学している。

ドイツ時代の安藤梢
ドイツ時代の安藤(source: getty images)

 ドイツで学んだことは、「サッカーは格闘技」だという。

 パス回しを重視する日本とは違い、ドイツのサッカーはゴールへ向かって速く攻める。その中で、球際の勝負は絶対に負けてはならない。相手をはじき飛ばすほどのフィジカルが必要であり、その「強さ」を示せない選手は試合に出られなかった。
 
 一方、課題として向き合ったのは日本人が苦手とする自己主張だ。

 ミーティングでは、監督の指示を素直に聞くような日本のスタイルはない。ドイツでは選手も監督も対等の立場で意見をぶつけ合う。その光景に驚いたという。

 試合に出られなければ、その理由を知るために監督の部屋を訪ねるのはごく普通のこと。日本では「生意気な行動」とためらいがちだが、ドイツの監督はオープンに考えを教えてくれたという。互いに意見をぶつけ合い、信頼関係を築かなければ何も始まらず、試合にも出られない。慣れない自己主張だったが、変わるしかなかった。

 試合中にはこんなことも。チームメイトがミスをして失点しても、「私は悪くない」と言ってくる。逆に、(プレー中に)声をかけなかった安藤のせいだと言う。ここで何も言い返さなければ自分のせいにされてしまうのがドイツ。とにかく必死で反論したという。

 「言いすぎた」と思うぐらい言わないと、日本人はドイツ人と対等にやり合えない。日本人の謙虚さはドイツではかえってマイナスに働くことを痛感したようだ。

 ドイツ時代について安藤は、「私のサッカー人生の転換期だった」と振り返る。これまでのサッカー観を覆され、殻をやぶり、強いメンタリティを培った。濃密な7年半だっただろう。

 こうして彼女のサッカー史を紐解くと、なぜ進化を続けらるのか、整う「心技体」の背景にあるものがよくわかった。

 「年齢に打ち勝つためのトレーニングを開発することは楽しい」と話す安藤。進化の伸びしろはまだまだありそうだ。〈敬称略〉

(了)

by KEGEN PRESS編集部
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