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「ミュンヘンの悲劇」を忘れないために、映画『ユナイテッド』は作られた

ミュンヘン・メモリアル・プラーク
オールド・トラッフォードの一角にある犠牲になった8人の選手の名前が記された追悼プレート(source: PeeJay2K3,CC-BY-SA 3.0,via Wikimedia Commons)

 深い悲しみを抱えながらも、マーフィーはクラブの再建に向けて強い決意で動き出す。一方、仲間を失ったボビーの精神的ショックは大きく、サッカーに向き合える状態ではなかった。「ユナイテッドは消えたんだ」と話すボビー。それに対しマーフィーは「あいつらの思い出は生き続ける。おれたちは一人じゃない」と諭すのだった…。

 事故寸前の切迫した機内の様子や選手の心理描写など、作品中の物語は事実に基づき忠実に再現されている。脚本を担当したクリス・チブナルは、生存者やその遺族に直接取材を行った上で書き下ろしたという。

毎年2月6日に本拠地オールド・トラッフォードとミュンヘンで追悼式

 事故から10年が経った1968年。ユナイテッドは悲願だったヨーロッパ・チャンピオンズカップを初制覇した。決勝で2得点を挙げたのは、主将としてチームの立て直しに貢献したボビー・チャールトンだ。このとき、バスビー監督は「ボビーが優勝カップを掲げた瞬間、大きな肩の荷が下りた気がした。責任をはたせた」と語ったという。

チャンピオンズカップを掲げるボビー・チャールトン
ヨーロッパ・チャンピオンズカップを初制覇し、カップを掲げるボビー・チャールトン。1968年(source: getty images)

 ユナイテッドの本拠地オールド・トラッフォードの一角には、犠牲となった8人の選手の名前が記された「ミュンヘン・メモリアル・プラーク」と呼ばれる追悼プレートがある。そして毎年2月6日には、オールド・トラッフォードやミュンヘンにある記念碑に人々が集まり、追悼式が行われている(2021年はコロナ禍のためオンラインで開催)。

 イギリスのサッカーファンなら誰もが知る「ミュンヘンの悲劇」だが、事故から60年以上が経ったいま、日本を含む国外で知る人は少なくなっている。

 だからこそ、悲劇を風化させないために、より多くの人に知ってもらうために、映画『ユナイテッド』は作られたのだろう。

 2020年2月、事故直後に機内の生存者を救出し「ミュンヘンの英雄」とも呼ばれた元ゴールキーパーのハリー・グレッグが87歳で亡くなった。そのため、ボビー・チャールトンはいま、悲劇を経験したクラブ最後の生存者となっている(ボビーは今年10月で84歳)。〈敬称略〉

(了)

ユナイテッド -ミュンヘンの悲劇- / 原題:UNITED
監督:ジェームズ・ストロング
2011年制作 / イギリス / 94分
by KEGEN PRESS編集部
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