大変革の「ACLエリート」は何が変わった? ― 複雑になった大会方式を整理
アジアの頂点を争う2024-2025年シーズンのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)が9月に開幕した。改革的な再編により、名称が「ACLエリート(Elite)」に変わっている。大会方式が一新され、予選におけるグループ分け、ホーム・アンド・アウェー形式はない。内容が複雑なだけにしっかり整理しておきたい。アジアサッカー連盟(AFC)の狙いは何なのか。その目的は。変更点をまとめ、考察した。 |
従来のACLとAFCカップを統合し、「3つの大会」に再編
これまで、AFCに所属する各国・地域のクラブが争う大会は「ACL」と「AFCカップ」の2つだった。AFCカップはACLに出場できないクラブが参加する大会で、欧州サッカー連盟(UEFA)におけるチャンピオンズリーグ(CL)とUEFAヨーロッパリーグの関係に近い。
今回はその2つが統合され、「3つの大会」に再編された。
アジアの頂点を決めるのが最高峰の①ACLエリート(Elite)だ。その下に②ACL2(Two)が設けられ、さらにその下に③AFCチャレンジリーグ(Challenge League)ができた。「3つの大会に再編」とはいえ、名称に「ACL」を冠するのはACLエリートとACL2の2つだ。
昨季のACL出場クラブ数は40クラブ、AFCカップは32クラブだった。再編後のACLエリートには24クラブが参加、スリム化された。一方、ACL2には32クラブが、AFCチャレンジリーグには18クラブが出場する。
【昨季】 【今季】 |
開幕前にプレーオフ(PO)があり、ACLエリートPOの敗者はACL2に出場。ACL2POの敗者はAFCチャレンジリーグを戦う。
狙いは付加価値の高い「少数精鋭」のトップリーグ新設
ACLエリートの出場枠「24」はどう決められるのか。
出場枠は各国・地域のサッカー協会(連盟)が持つポイント数に基づいて振り分けられる。「AFCクラブコンペティションランキング」と呼ばれ、過去8シーズンにおけるAFCの大会でのクラブの成績をポイント化。各協会に付与、序列化したものだ。
これにより、序列中位のサッカー発展途上国のクラブは、たとえ国内リーグを制したとしてもACLエリートに出場できない場合がある。昨季のACLに出場したシンガポール、フィリピン、ベトナム、香港などのクラブが該当し、今季はACL2を戦う。
そう考えると、AFCの狙いは技術力の高い“高付加価値”な「少数精鋭」のトップリーグ新設だ。
昨今、ACLの出場経験がないまま欧州へ移籍する日本人選手は少なくない。目的はアジアサッカーの底上げだが、それ以前に選手が出場したいと望む魅力ある大会にしたいのが本音だろう。
ACLエリートの優勝賞金は昨季比2.5倍の「1000万ドル」
魅力を高めるため、ACLエリートの賞金は大幅に引き上げられた。
優勝賞金は1000万ドル(約14.8億円)。400万ドルだった昨季のACLと比べると2.5倍だ。
AFCは改革の理由の一つに「出場クラブへの分配金の増額」も掲げていた。
そのため、昨季まで「0」だった出場報酬が改定され、今季は予選リーグに出場するだけでクラブは80万ドル(1.2億円弱)の報酬を得る。さらに予選リーグで勝利すると、1試合あたり10万ドル(約1480万円)の勝利報酬も与えられる。
もちろん、勝ち進むごとに報酬は加算。優勝クラブの報酬総額は1200万ドル超だ。
■クラブの経費負担を緩和 参加意欲の向上に
賞金・報酬の増額がもたらす効果は他にもある。
ホーム試合開催にかかる相手クラブの受け入れ費用やアウェー試合にかかる遠征費など、出場クラブの費用負担は大きい。
AFCはこれまで遠征費の一部を補助してきたが、予選敗退で報酬を得られないクラブの経済的なデメリットは課題だった。この上に過密日程による選手の疲労や怪我のリスクがのしかかる。
予選敗退でも80万ドル(約1.2億円)の「出場報酬」が得られれば、クラブの負担軽減となり参加意欲の向上にもつながるだろう。
「外国人枠」を撤廃 「育成」目的の新ルール適用
「外国人枠」を含めた選手登録の規定も大きく変更された。
これまでの「外国人5人+アジア枠1人」が完全に撤廃され、年齢や育成に関する新ルールが加えられた。
選手登録の上限「35人」に変更はないが、構成は①登録年齢に条件制限のない25人(リストA)と②21歳以下の選手10人のみ(リストB)になるよう改定。
①に関しては「ホームグロウン制度」を適用。以下の条件を定め、25人の中に(a)(b)の1人ずつが含まれることを義務付けた。
(a)15歳~21歳の間に日本国内で36カ月以上プレーした選手
(b)当該クラブ組織で15歳~21歳の間に36カ月以上プレーした選手
(a)(b)ともに国籍は問わない。
ACLエリートは東西に分かれリーグ予選 上位8位が16強へ
最も話題になったのが、一新されたACLエリートの大会方式だ。
東地区と西地区に分かれ、予選を行うことに変わりはないが、従来のグループ分けはなく、東西の各12クラブが1つのリーグを構成。上位8位が決勝トーナメントへ進む。
リーグ表を見ての通り、日本から出場するヴィッセル神戸、川崎フロンターレ、横浜F・マリノスの3クラブは同じリーグ内で順位を競う。
■グループ分けなし 他の8クラブと「1試合ずつ」戦う
予選リーグは12クラブの総当たり戦ではなく、各クラブはホーム4試合、アウェー4試合の計8試合を戦う。
注目点は、抽選で決められた他の8クラブと「1試合ずつ」戦うこと。ホームか、アウェーのどちらかで1試合だけ戦うので、「やられたら、やり返す」はできなくなった。
同一の協会(連盟)に所属するクラブ同士の対戦は行われないため、日本の3クラブが予選リーグで戦うことはないが、予選通過かけて順位は競う。(リーグ表下部の※を参照)
今季は欧州のCLも同様の変更を実施。グループ予選が廃止され、36クラブで1つの予選リーグを構成。ホーム・アンド・アウェー形式はなく、各クラブは他クラブと1試合ずつ計8試合を戦う。改革は欧州(UEFA)とアジア(AFC)の双方で同時に行われていた。
■16強からより変則的に 8強以降はサウジで集中開催
予選リーグ後のベスト16は東西8クラブに分かれ、ホーム・アンド・アウェー方式で行われる。予選の通過順位をもとに1位が8位、2位が7位、3位が6位、4位と5位が対戦。Jクラブ同士の対戦もあり得る。
疑問の声が上がったのがベスト8以降。サウジアラビアで集中開催され、一発勝負のトーナメントが行われる。
ベスト8は東地区と西地区のクラブが対戦するようマッチメイクされるため、Jクラブ同士の「つぶし合い」はない。
それでも、サウジアラビア開催なだけに中東勢にとっては有利で“ホーム感”が漂いそうだ。
「ACL2」は従来のACLとほぼ同じ 決勝は東地区で一発勝負
一方、ACL2の大会方式は従来のACLとほぼ変わらない。
東西に分かれてグループ予選が行われ、4クラブがホーム・アンド・アウェー形式で戦う。上位2クラブがベスト16へ進む。
東西対決となるのは決勝戦のみだが、優勝は一発勝負で勝敗を決する。ここが従来とは違う。では、どこで行うのか。今季は東地区のホームで開催され、来季は西地区で開催する。以後、決勝戦は東西交互に行われるという。
ACL2には、日本からサンフレッチェ広島(昨季Jリーグ3位)が出場する。決勝へ進んだ場合、戦いの舞台は今年2月に新開業の「エディオンピースウイング広島」だ。期待したい。
ACL2の優勝賞金は250万ドル(約3.7億円)で、準優勝は100万ドル。予選リーグの出場報酬は30万ドル(約4400万円)だ。勝ち進むごとに、ベスト16は8万ドル、ベスト8は16万ドル、ベスト4は24万ドルが追加される。予選リーグの勝利報酬は1試合あたり5万ドルだ。
少数精鋭で実力拮抗 リーグ予選は最後まで「手が抜けない」?
ACLエリートが採用した予選のやり方は「スイス方式」と言うそうだ。日本人にはあまり馴染みがなく、クラブによって対戦相手が異なる点に「公平性はあるのか」と考えてしまう。個人的には「やられたら、やり返す」のホーム・アンド・アウェー形式が好きだった。だから少し残念だ。
では、従来のグループ予選には無い「良さ」を見出すならば何だろう。「少数精鋭」なだけに実力が拮抗し、8位以内(予選突破)をかけた白熱の“ガチンコ勝負”が最終節まで続けば、「消化試合」は減少し、より楽しめそうだ。
また、前述のとおり各クラブの大会成績はポイント化され、来季のACL出場枠(所属するサッカー協会の序列)に影響してくる。そう考えると、各クラブは最後まで「手が抜けない」だろう。
いずれにせよ、“新ACL”の成果や課題は運用して初めて分かるもの。ACLエリートはサッカーファンを楽しませてくれるのか。見届けたい。
(了)
※記事中の大会賞金・報酬額は、2024年10月7日の為替レート(1ドル=約148円)で換算