巻き返した3年目の「WEリーグ」入場者数。クラブ別の序列に見られた変化は?
4年目の「WEリーグ」が開幕直前だ。観客動員数は女子サッカーの人気をはかる指標の一つだが、3年目の昨季はどうだったのか。変化はあったか。クラブ別のホーム入場者数などをもとに考察した。 |
リーグ全体の1試合平均は1723人 「脱コロナ」で盛り返す
発足から3シーズンが終了したWEリーグ。「1試合平均5000人」の集客目標を掲げスタートしたが、1年目の結果は平均1560人。2年目はそれを下回る平均1401人と厳しい状況が続いた。
しかし、3年目の2023ー2024シーズンは昨季比23%増の平均1723人と盛り返した。
背景を探れば、まずは脱コロナが考えられる。昨年5月に新型コロナウイルスが感染症法上の5類に移行。人々の行動制限はなくなった。サッカー観戦を存分に楽しめる環境が戻って初めてのシーズンだった。
一方、リーグ開幕前の2023年夏にはFIFA女子ワールドカップが開催された。また、リーグ中断期の2024年2月にはパリオリンピックの出場権をかけた最終予選があった。いずれも注目を集め、女子サッカー機運を高める要因があったといえる。
それでも、5000人の目標を考えれば平均1723人は満足できる数字ではない。また、詳しいデータを見ると、一部のクラブによる急増がリーグ全体の平均を押し上げたことが分かった。
4クラブが1試合平均2000人超え トップの広島は「爆増」
3年目のWEリーグは新規参入の「セレッソ大阪ヤンマーレディース」が加わり、12クラブによる総当り戦になった。
各クラブの試合数はホーム11試合とアウェー11試合の計22試合だ。下表は、ホーム11試合におけるクラブ別入場者数の合計を多い順に上から並べたもの。補足情報として、開幕日と最終日、11試合中の最多日と最少日の数値も加えた(WEリーグ公式データをもとに集計)。
以下は、2022-23シーズンのデータ。
3年目は、序列にみられた変化に注目したい。
トップは合計31980人のサンフレッチェ広島レディース。2位は新規参入のセレッソ大阪で28355人。前回トップの三菱重工浦和レッズレディースは26921人で3位だった。
広島と大阪の2クラブに共通するのは、男子のJ1クラブとサッカー専用スタジアムを共有する点だ。広島の1試合平均数は昨季より3倍近い。「爆増」した。
リーグ全体を見ると、新加入の大阪を除いて1試合平均数が前のシーズンを上回ったのは広島、浦和、仙台、大宮、新潟の5クラブ。一方、神戸、東京、長野、埼玉、相模原、千葉の6クラブは減少した。12クラグ中、4クラブが平均2000人超えた。
新設のエディオンピースウイング広島 好立地で「爆増」促す
広島「爆増」の要因は何と言っても、2024年2月開業の「エディオンピースウイング広島」だ。
広島市内の中心部につくられた「街中スタジアム」として話題沸騰中。原爆ドームや平和記念資料館、繁華街などの観光地へ徒歩で移動でき、好立地が際立つ。市民生活に溶け込む画期的なスタジアムだ。
昨季前半、広島は従来の「広島広域公園第一球技場」でホーム4試合を戦った。その平均入場者数は1401人。開幕戦は813人と寂しすぎた。
しかし、後半の7試合は新スタジアムを使用。今年3月の初使用で4619人を動員すると、以後6試合すべてで2000人を超えた。後半7試合の平均は3768人と急増。ホーム最終戦はクラブ史上最多の6305人を記録した。
日本一の臨場感 “セレ女”の本拠地ヨドコウ桜スタジアム
リーグ新参入の大阪は成績こそ9位と振るわなかったが、ホーム観客動員数は2位と健闘。本拠地「ヨドコウ桜スタジアム」の影響が大きいと考えられる。
かつての「長居球技場」を再改修し、2021年4月にリニューアル。客席の増設だけでなく、「日本一の臨場感」をコンセプトにピッチと客席の距離は5.8メートルに設定されている。選手の息づかいが聞こえる近さだ。また、最寄りのJR鶴ケ丘駅から徒歩わずか5分の「駅近」。集客効果はうなずける。
今年4月21日、雨が降る悪天候にもかかわらず、対日テレ・東京ヴェルディベレーザとのホーム戦でWEリーグ歴代2位となる6651人を達成した。
当日は大阪府サッカー協会のイベント(ヤンマーホールディングスが協賛)も開催され、動員を後押し。歴代1位は2022年5月に国立競技場で行われた神戸対浦和戦の12330人。「純粋なホーム開催」の観点でみるならば、6651人が過去最多といえるだろう。
セレッソ大阪といえば、10年ほど前にクラブを熱烈に応援する女性、いわゆる「セレ女」の急増が話題に。下地が生きたのか。今年5月には「WEリーグ集客No.1プロジェクト」を展開。「今こそ、セレッソファミリー集まれ」と呼びかけたが、広島にあと一步及ばなかった。
成績、集客ともに上昇した新潟 躍進の背景に「川澄効果」
目を見張る結果を残したクラブがもう一つある。アルビレックス新潟レディースだ。
過去2シーズンのホーム入場者数はいずれも平均1000人に満たず、リーグ成績も下位に沈んでいた。しかし、3年目のホーム入場者数は平均1762人と「急増」。成績も4位と健闘した。
スタジアム施設などの環境面は変わっていない。降雪地域という不利な一面がネガティブにとらえられてきたクラブだ。躍進の背景は何なのか。
個人的に思うのは、ズバリ「川澄効果」。昨年7月のシーズン前、まず新潟をにぎわせたニュースは元日本代表MF川澄奈穂美の「電撃加入」だった。
2011年女子ワールドカップ優勝メンバーの“レジェンド”。アメリカで長くプレーした経験豊富な選手だ。
一方、底抜けの明るさで周囲を笑顔にさせるパーソナリティを持つ。サッカーファンなら周知のとおりだ。人気の高さから発信力にも長け、クラブの広告塔になることは容易に想像ができた。
プレー、メンタルの両面でクラブに刺激を与えた「川澄効果」はすぐに表れ、チームはWEリーグカップ決勝へ進出(スコアレスドローの末、PK戦負け。惜しくも優勝を逃した)。地元民の期待感を高めた上でリーグ戦に突入できたことが集客増につながっている。リーグのホーム戦11試合中、8試合に勝利した。
クラブの取り組み、選手の頑張り、様々な努力が結実しての「躍進」だろう。だが、意識改革の発端は川澄だった。
指揮官の橋川和晃監督は「厳しいことも言えるし、物事を俯瞰(ふかん)して、いろんなことをまとめたりできる。チームの中心にいて、まさに太陽みたいな存在だった」とベタ褒め。今季も主将続投が決まった川澄に全幅の信頼を寄せる。
Jリーグの野々村チェアマンがWEリーグトップ兼任へ 連携に注目
WEリーグは「2023-24シーズンの総括」の中で、リーグ全体の入場者数が増加したことに手応えを感じている一方、「クラブ間の差が広がった」と報告。集客数の格差は各クラブの経済状況の格差に通じる。解消すべき課題だ。
広島や大阪、神戸のように男子のJ1クラブと利便性の高いサッカー専用スタジアムを共有するクラブは限られる。3シーズンを通じて集客数が伸び悩むクラブは新機軸を打ち出す必要性に迫られている。格差是正はWEリーグの責任なのか。それともクラブ側の努力の問題なのか。
そんな中、4年目のリーグ開幕直前となる9月11日、WEリーグは臨時理事会を開催。新理事長(三代目チェア)にJリーグの野々村芳和チェアマン、副理事長に日本サッカー協会(JFA)の宮本恒靖会長が就任する人事案を承認した。同26日の定時社員総会、理事会を経て正式決定する見込みだ。
今後、野々村氏はJリーグとWEリーグの両トップを兼務する。WEリーグはJリーグとどう連携を深め、課題に取り組むのか。大きな注目が集まる中、4年目のWEリーグが開幕する。
(了)