ジャイキリ、ではなかった―。日テレ・メニーナの「皇后杯4強」に思う
「中高生」主体のチームがWEリーグ・クラブに勝った
ジャイアント・キリング、ではなかった――。
昨年12月に行われた「第43回皇后杯JFA全日本女子サッカー選手権大会」の準々決勝。「日テレ・東京ヴェルディメニーナ」のことだ。WEリーグのプロクラブ・大宮アルディージVENTUSに4-0で快勝したその試合内容は、どう見ても日テレ・メニーナが上回っていた。強かった、うまかったのだ。
「ベレーザ」ではない。中学生が主体の下部組織「メニーナ」だ。この試合ではスタメン中の3人が中学生。なんと、中学1年生の選手もいた…。
この一つ前のベスト16でも、メニーナは同じくプロのINAC神戸レオネッサに2-1で競り勝ったが、その試合はダイジェストしか見ていない。なので、「中高生がすごい番狂わせだなぁ。考えられない…」とだけ思っていた。
しかし、続く準々決勝。実際に試合を見ると、想像以上のレベルの高さに驚いた。というか、「衝撃!」を受けた。この目で試合を見なければ、ただの番狂わせと勘違いしたままだっただろう。
何がそんなにすごかったのか。勝因は多々あるが、最も印象に残ったのは選手同士の距離感のよさ。パスを受けた選手がすぐに次のパスを出せるよう、味方の選手が常に良いポジションをとっていた。縦パスが入れば、1タッチで落とせるところに味方がいる。
中高生なのでパススピードは決して速くはないのだが、それをカバーできる距離感が意識され、徹底され、完成度が高かった。だから、少ないタッチ数でボールを回せるし、フィジカルで勝るプロ選手のプレスをかいくぐれるのだ。
ベスト16でINAC神戸に勝ったことで、大宮VENTUSは細心の注意と対策をもって試合に臨んだはずだ。それなのに大差をつけられ、敗れた。これはもう、ジャイアント・キリングではない。
その後、準決勝でジェフユナイテッド市原・千葉レディースに0-1で敗れたが、失点は試合序盤のミスによるもの。守備的な布陣をしいた千葉を攻めに攻めたが(終盤はとくに)、最後まで固い守りを崩せなかった。この試合でもメニーナのパスワークは見るものを魅了。味方の足元にボールを届ける技術は、正直メニーナの選手のほうが正確でミスが少ないと感じた。
日本の女子サッカーの課題はやはり「メンタル」なのか?
メニーナの試合を見て、思うことが2つあった。
一つは、日本の女子サッカーの課題はやはり「メンタル」なのか、ということだ。
既述のとおり、中高生とはいえ、メニーナにはプロ選手を上回るほどの技術があった。だとしても、プロ目線で言えば、「中高生」に負けるなんてあってはならないことだろう。例え技術に差があったとしても、そこはプロとしてのプライドや意地、勝ちにこだわるメンタリティみたいなものでカバーして、メニーナを凌駕できたはずだ。
だが、大宮VENTUSの場合、失点を受けて「嘘でしょ!」「まさか!」などのような気持ちが勝ってしまったように見えた。気持ちをコントロールできず、挽回できなかった。焦って、前がかりにプレスを急ぐほど、1タッチ、2タッチでいなされる場面もあった。
東京オリンピックでのなでしこジャパンも「気持ち」の部分の弱さが指摘された。短絡的だと言われるかもしれないが、今回のプロクラブの敗戦にも、何か通ずるものを感じてしまった。失点したり、自信を打ち砕かれたときに、いかにして精神面の動揺を立て直せるか。ここを改善できないと、良い選手が揃っても、技術が高くても、持っている力を100%出しきれない。
なでしこジャパンが目指すべきものを示したメニーナ
もう一つは、メニーナが見せたサッカーこそが、なでしこジャパンが目指すべきものになるんだろう、ということ。
正確に止めて、蹴る。サポートの意識や選手の距離感の共有を徹底させる。そこを追求して高められれば、体格に勝る相手のプレスを少ないタッチ数でかわせる。メニーナの選手は、押し込まれた自陣でも大きくクリアボールを蹴るのではなく、落ち着いてボールをつなぎ、何度もプロ選手を翻弄した。
極めれば、プロにも勝てる――。それを中高生が示したことは説得力があった。
昨年10月、日本サッカー協会・女子委員会は、なでしこジャパンの新監督に池田太氏を選んだ。その任務はゼロベースのチーム作りではなく、これまでやってきたことの「継続」だという。「技術や連動性の細部を詰め、共通理解を深め、“歯車を合わせる”こと」だと強調した。前監督の高倉麻子氏については功績を認めつつも、「もう少し約束事、決まり事があってもよかった」と総括した。(池田新監督で「なでしこ」は変わるのか。抜擢の決め手は「情熱的なチームビルディング」?に詳細)
メニーナの試合内容を代表チームが参考にするべきとまでは言わないが、何かしらヒントはありそうだ。体格の大きい欧米の選手とやり合うためのサッカーを具体的に示していると感じた。
録画したメニーナの2試合はとりあえず長期保存が決定した。後日見返しながら、改めてメニーナの選手からいろいろ学びたいと思う。
(了)