カルチャー

訪れてみたい、“サッカー侍”が戦った街 ― マンチェスター(イギリス)

「ユナイテッド」と「シティ」、英サッカー2大クラブが本拠地を置く

 イギリス発祥のサッカーは労働者の娯楽スポーツとして人気を集めた。マンチェスターがその文化の中心だったことは言うまでもない。この地には、実力と人気を兼ね備えた2大クラブが本拠地を置く。

 1878年創立のマンチェスター・ユナイテッドFC(Manchester United)はその象徴的なクラブだ。

1904―1905年シーズン当時のマンチェスター・ユナイテッド
1905年当時のマンチェスター・ユナイテッド

 創立当初のクラブ名は「ニュートン・ヒース・ランカシャー&ヨークシャー・レイルウェイズFC(Newton Heath Lancashire and Yorkshire Railway FC)」。その名の通り、「鉄道員」によって結成された。1885年にプロ化し、1902年にマンチェスター・ユナイテッドに名称を変更した。

 第二次世界大戦前は、国内リーグ2回とFAカップ1回を制したのみだったが、戦後はサー・マット・バスビー氏とサー・アレックス・ファーガソン氏の2人の名将監督により3度の黄金期を築いた。これまでに国内リーグ20回、FAカップ12回、UEFAチャンピオンズリーグ(CL) 3回(旧チャンピオンズカップを含む)を含む数々のタイトルを獲得。世界屈指の強豪クラブに成長し、歴史に残る名選手も多数輩出した。

 バスビー時代には、主力8人とスタッフ3人が命を失った飛行機事故「ミュンヘンの悲劇」(1958年2月6日)を経験。バスビー氏自らも重傷を負い、チームは大打撃を受けたが困難を乗り越え再建。1968年のチャンピオンズカップ初制覇などを通じてクラブを世界的な強豪へと押し上げた。(「ミュンヘンの悲劇」を忘れないために、映画『ユナイテッド』は作られたに詳細記事)

 ファーガソン時代には2度のリーグ3連覇と、国内リーグ、FAカップ、CLを1シーズン中に制覇する「トレブル(3冠)」を達成。「赤い悪魔」の異名を世界にとどろかせた。しかし、2013年にファーガソン氏が勇退してからは長く低迷中。香川真司らが優勝した2012―2013年シーズンを最後に国内リーグ制覇はない。

 一方、1880年創立のマンチェスター・シティFC(Manchester City)は近年急成長をとげている。

1904年当時のマンチェスター・シティ
1904年、FAカップを制しクラブ初タイトルを獲得したときのマンチェスター・シティ

 地元の教会が結成したクラブ「セント・マークス(St. Mark’s)」が1887年にプロ化して 「アーディックAFC(Ardwick AFC)」となり、1894年にマンチェスター・シティに改称された。

 かつては好不調の波が激しく、1部と2部を行き来した。3部に落ちた暗黒時代もある。しかし、2008年にアラブ首長国連邦(UAE)の投資会社に買収されたのを転機に、豊富な資金で大型選手を補強。2010年ごろから結果がともない、数年でビッグクラブへと成長した。

 これまでに国内リーグ7回、FAカップ6回の優勝歴があるが、そのうち7回が2010年以降のものだ。2017年から2019年までの2シーズンを通じ、クラブ初の国内リーグ2連覇を達成。3連覇はならなかったが(結果は2位)、翌2020―2021年シーズンで再び王者に返り咲く強さを見せた。

 2019年に日本の板倉滉と食野亮太郎をそれぞれ完全移籍で獲得して驚かせた。しかし、いずれも加入と同時にローンで放出したため、クラブでの出場経験はない。

(以上、2021年9月現在)

マンチェスター・ダービー
マンチェスター・ダービー。写真は2011年10月のプレミアリーグ(source: UEFA Champions League on twitter)

 ユナイテッドとシティ。両クラブの対戦は「マンチェスター・ダービー」と呼ばれる。

 初対決は、前身のクラブ同士が対戦した1881年までさかのぼる。だが、当時は対抗意識がそれほど高くなかったようだ。双方のサポーターは、ホームゲームがあればどちらの試合にも足を運んだという。

 互いに対抗心が芽生えたのは1970年代以降とされる。近年はシティがユナイテッドに肩を並べる強豪クラブに成長したこともあり、マンチェスター・ダービーはすさまじい熱を帯びている。

サッカーは街の文化。ホームスタジアムの観覧ツアーが人気

 サッカーが街の文化だけに、両クラブのホームスタジアムは人気の観光スポットだ。

 ユナイテッドの本拠地「オールド・トラッフォード」は世界有数のスタジアムとして知られる。1910年に完成。戦中の1941年に空襲により焼失し、1949年に再建された歴史を持つ。スタジアム内には、クラブの栄光や歴史をたどる資料を展示。観覧ツアーが人気だ。街の歴史とともに歩んできたスタジアムだけに、国内外から観光客が訪れる。

オールド・トラッフォードとエティハド・スタジアム
オールド・トラッフォード(左)の収容人数は約75000人。エティハド・スタジアムは約55000人

 一方のシティは、1923年完成のメインロード・スタジアムを長く本拠地としてきた。戦争でオールド・トラッフォードが焼失した後にはユナイテッドも8年間使用したこともある。

エティハド・スタジアム観戦ツアー
エティハド・スタジアム観戦ツアーの様子

 しかし、メインロードは老朽化のため2003年に廃止に。マンチェスター市が2002年に「シティ・オブ・マンチェスター・スタジアム」を新たに建設し、シティは賃貸借契約を結んで現在本拠地としている。2011年からは命名権契約(10年間)を結んだUAE国営のエティハド航空の名前を冠して「エティハド・スタジアム」と呼ばれる。同じく、観覧ツアーがある。

 最後に、「国立フットボールミュージアム」を紹介したい。入場無料なので「サッカーバカ」は必ず訪れたいスポットだ。

国立フットボールミュージアム
モダンな外観の国立フットボールミュージアム。2500点以上の資料が展示される

 かつてはサッカーの聖地ロンドンのウェンブリー・スタジアム内にあったが、2001年にプレストンのディープデールに移設され独立オープン。その後、2012年にマンチェスターに移転した。この地もまたサッカーの聖地であることを証明している。

 モダンな外観が特徴的で、ワールドカップやイングランド代表をはじめ国内外のサッカーの歴史を伝える貴重な資料2500点以上が展示されている。館長は、元イングランド代表でユナイテッドの黄金期を築いたあのレジェンド、サー・ボビー・チャールトンだ。いつか、日本サッカー協会がこれほどの博物館を建てる日は来るのだろうか。

(了)


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by KEGEN PRESS編集部
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