日本サッカー

ストライカーコーチになった大黒将志は何を教えているのか?

 例えば、味方の選手がクロスボールやスルーパスを出す瞬間。相手ディフェンダーはどこを見てしまうのか。そこには習性がある。それを理解した上で死角になるポジションを取れば、ディフェンダーはマークを見失う。つまり、「相手ディフェンダーが嫌がるポジションはどこなのか」を教えている。

 過去の自身の得点シーンの映像をパソコン上で編集し、「クロス編」や「スルーパス編」などと分けて選手に見せることも。「(過去の得点シーンを)集めてみると、やってる駆け引きはほとんど同じ。パターンがある」。そのパターンをディフェンダーの習性と合わせて教え、頭に刷り込ませるのがねらいだ。

 一方、体の向きについては、「ボールを受けるとき、味方の選手が蹴るタイミングがわからない(見られない)体の向きをしている選手が多い」と指摘。ボールを持つ味方と、目指すべきゴールの両方が視野に入る体の向きをつくることが大切だと教えている。試合で気になったプレーは映像をコメント付きで編集し、選手に見せて気づかせる。

セリアAでの経験、インザーギに教わったこと。「すべて教える」

大黒将志とフィリッポインザーギ
イタリア・トリノFC時代の大黒(右)とACミランに所属していたフィリッポインザーギ

 大黒氏の特筆すべきキャリアは、やはりイタリア・セリアAでプレーしたことだろう。

 世界的にも堅い守備で知られるイタリアサッカーで戦った経験を語れる価値は大きい。かつてセリエAでプレーしたことのある日本人フォワードは、大黒氏以外には三浦知良、柳沢敦、森本貴幸の3人しかいない。

 「イタリアで見たストライカーたちはピッチで何をしていたのか。そういうこともすべて教える」

 とくに影響を受けた、好きな選手は元イタリア代表のフィリッポ・インザーギ。そのインザーギ氏とは「お茶をしながらプレーについて教えてもらった」ことがあると明かした。

 「インザーギのプレーを見ると、わざと止まるアクション以外は予測しながらずっと動いている。かれのプレーはピッチで何度も見た、直接いろいろ話も聞けた。得たヒントが多く、(帰国後に)早く試したくてしかたがなかった」

 その効果はJリーグ復帰後のプレーに大きく出たと話すとおり、その後現役引退までにJリーグで129得点をあげることになる。

 どちらかというと感覚的にプレーする天才肌のタイプだと思っていた。しかし実際は、緻密に計算されたポジション取りで勝負し、経験を積み上げ成長したタイプ。観察力や継続した努力も垣間見える。

 「日本では、点の取り方みたいなものを理解している選手が少ないと感じる」

 だからこそ、教える側の指導者がフォワードの動き出しやディフェンダーとの駆け引きについてしっかり理解していなければ、「教わる側も理解はできない」と指摘する。そして、「ストライカーコーチの存在は必要になってくる」と。

 ストライカーコーチとしての大黒氏の挑戦は始まったばかり。ガンバ大阪の下部組織から「ゴール量産型」のストライカーが誕生する日は来るのか。期待して待ちたい。

(了)

by KEGEN PRESS編集部
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