久保建英の「魂」を感じた夜 ― 泣き崩れる姿に「本物感」
2021年8月6日、午後7時55分すぎ。埼玉スタジアム2002のピッチ上で泣き崩れる久保建英の姿に、心を動かさた人は少なくなかったはずだ。
東京オリンピック・サッカー男子の3位決定戦。日本はメキシコに1対3で破れ、53年ぶりの銅メダルには届かなかった。
Embed from Getty Images日本代表の選手全員が悔しかったことは分かっている。感情表現の方法は人それぞれだということも分かっている。ただ、人目をはばからずに号泣したのは久保だけのようだった。いつもはクールでひょうひょうとしている彼だけに、突き動かされるものがあった。
きっと、泣き崩れる久保を見て、やっと気づかされたからだろう。
彼の覚悟がどれほどのものだったのか。勝ちたい気持ち、背負ってきたものがどれほど大きかったのか。テレビ画面を通じて、久保の「魂」を感じた瞬間だった。彼の中にこみ上げてくるものが、こちらに伝わってくる感覚すらあった。
自分を表現し続ける、度肝を抜かれた20歳のメンタル
今大会、久保の活躍がチームを前進させたことは明らかだった。全6試合に先発出場し、予選リーグ3試合で3得点。1試合1得点ずつの3得点だ。決勝トーナメントに入り得点はなかったが、誰もが「日本のエースは久保だ」と認めた大会だった。
20歳の久保は本来、2024年に開催されるパリ・オリンピック世代の選手だ。今大会は「飛び級」で招集された。日本代表は、そんな一つ下の世代の久保に攻撃のけん引役を託した。替えの効かないキープレーヤーとして。香川真司や南野拓実など、過去に「飛び級」招集でオリンピックに出場した選手はほかにもいる。しかし、いずれも彼らが中心を担うチームではなかった。
だからこそ、重圧につぶされず、「自分のプレー」を表現し続ける久保の強いメンタルには度肝を抜かれた。「20歳にして、ここまで“戦える選手”に成長しているのか」と。人目をはばからず号泣する姿には「本物感」が漂っていた。
3年後のパリへ。楽しみで仕方ない、今後の成長過程
3年後のパリ・オリンピックを目指すU-20日本代表はすでに始動している。
久保の涙を画面越しに見た現メンバーは刺激でしかなかったはずだ。パリのピッチに立つためには、久保と同レベルの覚悟と気持ち、そしてメンタルが必要だ。そう感じた選手もいたのではないだろうか。
試合後のインタビューで、「いままでサッカーをやってきて、こんなに悔しいことはない」と涙ながらに話した久保。この先、彼はサッカー人生にどう向き合ながら、高みを目指し成長していくのか。その過程を追うことが楽しみで仕方ない。また、彼が持つ人間的魅力に、これまで以上に興味がわいてしまったのは私だけだろうか。
それぐらい、久保建英の「魂」を感じた夜だった。
(了)