変わる東アジアのサッカー勢力図 ― ACLで際立ったASEAN勢の躍進
国家の意地とプライドがぶつかりあうアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)が今年も始まった。東地区予選では東南アジア勢の躍進が際立ち、韓国やオーストラリアの強豪クラブが苦戦。番狂わせもあった。その躍進を支えるのはASEAN地域の急速な経済成長だ。「アジアサッカーの発展」を掲げ、日本サッカーは早くから協力的な関係を結んできたが、その成長が「脅威」となるのも時間の問題だろう。いま、東アジアのサッカー勢力図は変わりつつある。
川崎Fが予選敗退 タイとマレーシアの2クラブが“首位通過”
コロナ禍を受け、ACLは昨年同様にホーム&アウェーはなし。東地区のグループ予選は4月中旬から約2週間、タイ、ベトナム、マレーシアの3カ国で集中的に開催された。中2日の6連戦と高温多湿の気候は選手のコンディション調整を苦しめた。
ACLを毎年見つづけると、アジアのサッカー情勢や勢力図が分かってくる。個人的に大好物の大会だ。今回のグループ予選では、東南アジア勢の躍進が際立った。
昨年も技術的な向上と変化には目を見張るものがあった。今年はそれに結果を伴うクラブがみられた。予想外の「首位通過」を決めた、タイのBGパトゥム・ユナイテッド(以下、BGパトゥム)とマレーシアのジョホール・ダルル・タクジム(以下、JDT)だ。他の東南アジア勢とは違い、「善戦するも、惜敗」では終わらなかった。これには驚いた。
あらかじめ伝えておくと、日本から出場したJリーグ勢の4クラブ(浦和レッズ、ヴィッセル神戸、川崎フロンターレ、横浜Fマリノス)は、東南アジア勢に黒星をつけられていない。
しかし、川崎はJDTに、神戸はチェンライ・ユナイテッド(タイ)に、いずれも2度の対戦のうち1試合は引き分け。Jリーグ王者の川崎はそれが響いて結果的にグループ2位で終え、予選敗退となってしまった。
対東南アジア 韓国、オーストラリア勢はかつてない苦戦
一方、韓国とオーストラリア(豪州)のクラブはかつてないほどの苦戦を強いられた。
グループGでは、BGパトゥムを相手に全南ドラゴンズ(韓国)が1敗1分け、メルボルン・シティ(豪州)は2分けといずれも勝ち星を奪えなかった。グループIでは、JDTを相手にACLを2度制したことのある蔚山現代(韓国)がまさかの2敗。蔚山は川崎にこそ1勝1分けと負けなかったが、思わぬ伏兵に白星を献上し、5大会ぶりのグループ予選敗退となった。
韓国のスポーツソウル紙は、「Kリーグが“東南アジアの襲撃”に振り回され、頭を下げることになった。対東南アジア勢で6勝2分の無敗を記録した日本勢とは対照的な結果だ」と報じ、その原因は「安易な対戦相手分析と試合に臨む態度」だと指摘した。ショックは大きかったようだ。
このほかにも、ベトナムのホアンアイン・ザライFCはシドニーFC(豪州)に1勝1分けで勝ち越し、シンガポールのライオン・シティ・セーラーズFCは大邱FC(韓国)を相手に3-0の完勝劇を見せた。
いま、東アジアのサッカー勢力図は変わりつつある。
過去のACLにおいて、Jリーグ勢は韓国や中国、オーストラリアの強豪クラブとの対戦に細心の注意をはらってきた。東南アジア勢との試合は多少メンバーを入れ替えても勝ち星を計算できたからだ。主力選手を温存することもできた。しかし、いまや実力は拮抗し、差は縮まっている。東南アジア勢の躍進により、勝ち点の計算は難しくなっている。
もちろん、今回のBGパトゥムやJDTに関していえば、サポーターの声援、気候やピッチ条件への適応などホームアドバンテージがあったのは事実だ。しかし、それらを除いても、日本や韓国に対する苦手意識は確実に薄れていた。「やれる」という手応えと自信がうかがえた。
10年余りで強豪になった「JDT」 皇太子の“改革”が転機に
川崎と蔚山を予選敗退へ追いやった「ジョホール・ダルル・タクジムFC」はどんなクラブなのか。
日本人には馴染み深い、マレーシアのジョホール州の州都ジョホールバルを本拠地とする。日本代表が1997年にフランスワールドカップ(W杯)の出場権をたぐり寄せた、あの「ジョホールバルの歓喜」の舞台だ。
JDTは現在、国内リーグ8連覇中で「一強時代」を築く。だが、マレーシアを代表する強豪クラブと呼ばれるようになったのはここ10年余りのことだという。
1972年に創設。前身のジョホールFCは2001年ごろまでは2部リーグも経験した並のクラブだった。しかし、2012年にジョホール州の皇太子トゥンク・イスマイル氏が同州サッカー協会の会長に就任すると、「サッカー改革」に着手。州内のクラブをジョホールFCに統合させ、「ジョホール・ダルル・タクジム」が誕生した。
潤沢な資金をもとに、クラブは元スペイン代表のダニ・グイサや元アルゼンチン代表のパブロ・アイマールら大物外国人を相次いで獲得。あっという間に2014年に国内リーグを制覇した。以来8年間、「王者」の地位を守りつづけている。
インフラ整備にも力を入れ、豪華な設備が整うトレーニング施設が2016年に開設。2020年には4万人収容の新スタジアムが完成した。
また、アカデミー選手やスタッフの育成などを目的に、イタリアのユベントスやドイツのドルトムント、スペインのバレンシア、日本の北海道コンサドーレ札幌などの海外クラブと戦略的パートナーシップを結ぶ。