急成長中のベトナムサッカーは、長期的な視点で「2026年W杯」出場を目指す
Jリーグや指導者など、深まる日本サッカーとの協力関係
近年は、日本サッカーとの結びつきが顕著になっている。
元日本代表の松井大輔の電撃移籍で話題となったサイゴンFCは、現在JリーグのFC東京、FC琉球と提携関係を結ぶ。「Jリーグ化」を進めるという。スポンサーには多くの日系企業が名を連ねる。
前述のPVFは、2016年にガンバ大阪と提携を結び(2年間)、U-15の監督として1年間日本人指導者を招いた経験がある。2019年にはPVF・U-16が奈良市内で開催の国際ユース大会に招かれ出場するなど、その後も関係は続いているようだ。
川崎フロンターレは、ベトナム南東部のビンズオン省でサッカースクール事業を始めると今年5月に発表。同クラブは2013年ごろから、育成年代の交流や指導者派遣などを通じてベトナムで活動を続けているという。また、セレッソ大阪の主要スポンサーであるヤンマーホールディングスは、現在VFFを通じてベトナム代表とのスポンサーシップ契約を結んでいる。
こうした事例は増加傾向だ。経済成長が著しいベトナムは、日本の経済界からも熱い視線が注がれており、サッカーを通じた両国の結びつきは今後も深まりそうだ。
■ VFF主要ポストで活躍する2人の日本人指導者
そんな中、VFFでは現在2人の日本人指導者が主要ポストで活躍している。テクニカルダイレクター(技術統括)の足達勇輔氏と、女子サッカー統括の井尻明氏だ。
足達氏は、セレッソ大阪などのJリーグ下部組織の監督を経て、横浜FC監督(2005-06年)、AC長野パルセイロのスポーツダイレクターなどを歴任。2017年にAFCのエリートインストラクターとしてベトナムを訪れ、指導者に講義を行ったことがきっかけで、2020年9月から現職を務める。主に育成年代の強化と指導者の育成を担当。日本サッカー協会(JFA)で言えば、技術委員長に相当する重職だ。
一方の井尻氏は、JFAアカデミー福島やJFA・U-17日本代表コーチ、AC長野パルセイロ・アカデミーダイレクターなどを歴任。JFAの派遣により2019年からベトナムに渡り、女子代表テクニカルアドバイザーを兼務しながらアンダー世代の女子代表監督を務めている。
男子代表監督が韓国人に対し、技術統括と女子統括が日本人という体制には、日本の育成方法を取り入れたいVFFの強い意向がうかがえる。
実は2017年当時、VFFが最初に代表監督の要請を試みたのは、元オリンピック日本代表監督の関塚隆氏だった。しかし、条件面で折り合わず、パク・ハンソ氏を選んだという。パク監督の任期は2022年1月末までだが、1年延長(オプション付き)の見方が有力だ。いずれにせよ、パク監督の後任選びの際は、再び日本人指導者を求める可能性もありそうだ。
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ベトナム人の勤勉さは日本人に似ていると言われる。しかし、長い戦争を経験したことで、将来よりも、目先を重視する「近視眼的」な思考が強く、中長期的な視点で物事を進めることが苦手な傾向があるという。それにもかかわらず、長期計画で育成強化に取り組む背景には、30年をかけてアジアのトップクラスに上り詰めた日本サッカーへの強いリスペクトがあるからだ。
ベトナムサッカーはさらに飛躍するのか。日本との協力関係の動向も含め、注目したい。
(了)
注1… 1960年に北ベトナムに設立されたベトナムサッカー協会を前身としている。
注2… 2008年大会から自動車大手のスズキがスポンサーに付いたため、AFFスズキカップに大会名が変更された。
注3… 2021年2月、PVFの全運営権はビングループからバンラン教育グループに譲渡された。