つまずいた若者には「アニキ」が必要なのか? 長友佑都の代表復帰と「Z世代」
「Z世代」中心のフル代表 アジアカップで自信喪失
つまずいた若者には「アニキ」が必要なのか?
3月、ワールドカップ(W杯)アジア2次予選の北朝鮮戦に向けたメンバーに37歳の長友佑都が約1年ぶりに電撃招集された。そのときに、ふと思った。
長友の選手ピークはとっくに過ぎている。「気合い注入役」「盛り上げ役」を期待しての選出だろう、というのがメディアを含めた大方の見解だった。
背景にあるのは、今年1月のAFCアジアカップでのベスト8敗退だ。昨年の親善試合でドイツやトルコを撃破したときの揺るぎない自信が、アジアカップでは感じられなかったからだ。「ここまで変わるのか?」と思うほど、別のチームになった印象すらあった。
その激変ぶりに誰よりも驚いたのは森保一監督かもしれない。
絶対に落とせないW杯予選が迫り、短時間で再び「一丸」になる必要があった。そこで精神的支柱になれる「アニキ(兄貴)肌」の長友を求めた。“超ポジティブ思考”で知られる男だ。
監督の胸中を察すると同時に、私は「昭和世代」の日本人指揮官ならではの判断だと思った。なぜなら、代表メンバーの多くは「Z世代」と呼ばれる若者が中心だからである。
森保監督の根幹に根性論 「最後は気合、と答えたい」
令和時代に入り、「昭和世代」と「Z世代」の価値観の違いがよく話題にされている。スポーツ界でも、中高年の指導者と若い選手による「コミュニケーションギャップ」が存在する。
アジアカップ開幕の少し前、森保監督がお笑い芸人の明石家さんまと対談するテレビ番組を見た。2人はともに日本が「サッカー後進国」だったころを知る昭和世代だ。
対談では「世代論」で盛り上がる一幕があった。
森保氏は、代表選手との世代間の差について「(自分とは)脳が違う」と表現した。その上で、「昭和の根性論ばかりの自分が、戦術だとか、役割だとか、長けている選手たちを見なければならない。学ぶところが多いです」と話した。
さんまがそれを聞いて確認する。「それでも、おれは昭和なんだ、昭和の教えでいく! それでいいんですよね?」
森保氏は「最後は気合なんで」と苦笑。
さんまは「でも、それが正解!」と爆笑。
森保氏は続けた。「正解だと思います。私自身もそう答えたいんですが、選手から『気合じゃなくて、違う答えをください。どうしたらいいかを教えてください』と言われると思うので(笑)。いまは説明が必要かなと思います。でも、根幹は一緒です」
根性論に共感した2人だが、森保氏はあえて「封印」しているようだ。
長友招集のポイントはZ世代に足りない「熱量」
昭和世代から見て、Z世代は「メンタルが弱い」「打たれ弱い」と思われがちだ。そうでない人もいるが、全体的な印象として、そうとらえられている。
「海外組」ばかりの代表選手がそんなはずはない。と思うのがふつうだが、育ってきた時代背景が違う。価値観や思考方法が異なる世代だと理解する必要がある。
理屈じゃどうにもならないことが起こったとき、昭和世代は自らを奮い立たせる気概を求められた。それがメンタルを支える、と教えられた人もいる。サッカーでもそうだ。技術や戦術を語る前に大事なことだとすり込まれている。
「最後は気合」という言葉はそこにつきる。しかし、論理的に物事を考え、根拠を求める「Z世代」には根性論は響かない。だから、「熱量が足りない」と思われがちだ。
長友招集のポイントはこの「熱量」にある。
選出理由について森保監督は、「Jリーグで高強度のプレーを見せている」と説明。「選手として彼を選んだということを伝えたい」と強調した。
だが一方で、「彼がもたらしてくれるエネルギーに期待したい」「ピッチの内外で存在感を発揮してほしい」とも話している。本音はきっと後者だ。
「覇気がない」と長友 “異彩”放つ存在感で喝入れる
代表復帰した長友は、初日の練習でさっそく“異彩”を放った。
ランニングで先頭を走り、ボール回しで声を出し続けた。ときにオーバーなリアクションで場を盛り上げ、イジられる。他の選手から自然と笑みがこぼれた。
まるで代表初選出のようなギラギラ感。
練習後、報道陣に対し「新しい選手が僕の熱にちょっと引いていて。距離を取られる感じが最初はあった」と明かし、笑いを誘った。
一方、アジアカップの日本代表については「強いと思っていたが、元気も、覇気もなかった」とダメ出し。さらに「苦しい時こそ、盛り上げるメンタルの強さが必要。元気なやつが一人いたら伝染していく」と喝を入れた。自らの役割を理解した発言だった。
W杯2次予選は北朝鮮でのアウェー戦がまさかの没収試合に。長友がピッチに立つ機会はなかった。それでも、ホーム戦はさすがの存在感で仲間を鼓舞し続けた。不戦勝を含む2連勝で、日本は最終予選進出を決めた。
2022年W杯後のフル代表にいなかった「昭和世代」
代表チームには精神安定剤的な「アニキ肌」の選手が必要なのか。それとも、そんなものは昭和世代が考えがちな「古い組織論」なのか。
過去の代表メンバーを見ると、誰かしら「アニキ」がいたように思う。
私が思う「アニキ肌」の選手とは、チームでは「年長組」に位置し、経験豊富で面倒見がいい選手だ。熱量が高めで逆境に強く、気の緩みを感じれば締め、まとめる。だが、オフザピッチでは後輩にイジられる。というか、それを容認し、場を和ます。欲張りすぎたが、そんなタイプ。
W杯カタール大会での躍進後、「Z世代は実はメンタルが強い?」なんて内容の記事を見かけたが、あのときはZ世代を支える川島永嗣や長友佑都がいた。「レジリエンス」が口癖の吉田麻也もいた。しかし彼らが去ったあと、「アニキ」は不在だったと言える。